(…前編「音も映像も実はスゴイ! オスカー目玉作品『ROMA』はAV的カタルシスも堪能できる作品」より続く)
【映画を聴く】『ROMA/ローマ』後編
オスカー最多10部門ノミネート、善戦を期待したい!
『ROMA/ローマ』の音楽面の話題としてもうひとつ、アルフォンソ・キュアロン監督自身がプロデュースした『Music Inspired By The Film Roma』というコンピレーションアルバムも忘れてはいけない。キュアロン監督が自分のお気に入りのアーティストに声をかけ、映画から受けた印象を楽曲にしてほしいと依頼したもので、パティ・スミス、ベック、ビリー・アイリッシュ、ローラ・マーリング、T・ボーン・バーネットら、豪華な面々が参加。しかも15曲すべてが新録音という充実ぶりだ(パティ・スミスは自作曲のセルフカヴァー)。
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ハイライトは、やはりベックの歌う「Tarantula」だろうか。80年代にイギリスの4ADレーベルで活動したカラーボックスというグループの楽曲をカヴァーしたもので、ベックは実父で編曲家のデヴィッド・キャンベルによる壮大なオーケストレーションをバックに、ひとり多重コーラスを駆使しながら朗々と歌い上げている。終盤にはカナダの女性シンガー・ソングライター、ファイストとの掛け合いも重なり、2002年の『Sea Change』や2014年の『Morning Phase』あたりに収録されていても不思議ではない仕上がりになっている。
『ROMA/ローマ』にインスパイアされた楽曲として、この「Tarantula」を引っ張り出してきたベックの意図は、歌詞を眺めれば理解できる。「偽りのマスクを被る」「未来の見通しは厳しい」「愚かな男たちとともにある嘘の決断」「奇妙な黒潮」など、登場人物たちの置かれた立場や心境、不穏な社会的背景とリンクするようなフレーズをいくつも見つけることができるからだ。
その他の楽曲についても、単に映画のワンシーンをトレースしたり、登場人物に感情移入するのではなく、現代社会にも有用な問いかけとサウンドが折衷した聴き応えのあるものが並んでいる。ある意味では、オリジナルサウンドトラックを聴くよりも『ROMA/ローマ』に近い世界観に浸ることができるので、Netflixで本編鑑賞後、SpotifyやAppleMusicでお楽しみいただきたい。
Netflixオリジナル映画『ROMA/ローマ』、Netflixにて独占配信中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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