【映画を聴く】『グリーンブック』前編
親しむ音楽世界も真逆の2人の友情物語
さまざまな賞レースを席巻し、第91回アカデミー賞では見事に作品賞・助演男優賞・脚本賞の3部門を受賞した『グリーンブック』。すでに3月1日から公開が始まり、「ぴあ」初日満足度ランキング第1位となるなど好調な滑り出しを見せているが、ここでは同作を形づくる音楽面の諸要素にクローズアップしてみたい。
・おバカ映画のヒットメーカーが、感動!のオスカー3部門受賞作をひっさげ初来日!
●実在したピアニスト、ドン・シャーリーとは?
『グリーンブック』は実話を基にしたドラマだが、マハーシャラ・アリの演じる孤高の天才ピアニスト、ドン・シャーリーは一般的にほとんど知られていない。彼は1927年にジャマイカ人の両親のもとフロリダ州ペンサコーラで生まれ、教師だった母親に教わりながら2歳でピアノを始めている。
最初のレコードは、1955年にリリースされた『Total Expressions』。現在はこの作品を含む数枚のアルバムをSpotifyなどのストリーミングサービスでも聴くことができる。クラシックと呼ぶにはホットすぎ、ジャズと呼ぶにはクールすぎる彼の音楽は極めて独特だ。通常ピアノトリオといえば、ピアノ/ベース/ドラムという編成が一般的だが、劇中でも見られるようにシャーリーはピアノ/チェロ/コントラバスという編成を好み、それが彼の芸風をいっそうユニークなものにしていた。
●コパカバーナとカーネギーホール
ヴィゴ・モーテンセンの演じるトニー・“リップ”・バレロンガもまた実在の人物で、本作は彼の息子のニック・バレロンガが父から聞いた話を基にしている。トニーは1930年、NYブロンクス生まれのイタリア系アメリカ人で、兵役を終えたあと、NYの高級ナイトクラブであるコパカバーナのフロアマネージャーとして働くようになったという。
コパカバーナは、NYでも特に古い歴史を持つナイトクラブ。1950〜60年代にはフランク・シナトラやサミー・デイヴィス・ジュニアといったスターが多く出演して人気を集め、何度か転居をしながら2007年7月まで営業を続けている。サム・クックやシュープリームス、マーヴィン・ゲイらがコパカバーナでのパフォーマンスを録音したライヴアルバムを発表しているほか、バリー・マニロウはその名も「コパカバーナ」という曲を1978年にヒットさせている。
ブラジル・リオデジャネイロにある町の名に由来するコパカバーナがラテン〜大衆音楽の象徴だとすると、カーネギーホールはエスタブリッシュされたクラシック音楽の象徴である。そういう意味でトニーとシャーリーの立ち位置は、当時の時代背景を考えても真逆と言えるし、その対象性が物語をさらにドラマチックに演出しているわけだ。(後編へ続く…)
・後編「天才音楽家2人が、名優マハーシャラ・アリを媒介にセッション!? オスカー受賞作を音楽面からチェック!」
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