(前編「満足度No1『グリーンブック』をもっと楽しむ4つのポイント」より続く)
【映画を聴く】『グリーンブック』後編
ライバル『ROMA/ローマ』との共通点とは?
●クリス・バワーズの音楽
『グリーンブック』の音楽を担当しているのは、ジャズミュージシャンのクリス・バワーズ。1989年生まれの彼は4歳でクラシックピアノを始め、ジュリアード音楽院でジャズを学び、2011年にジャズ界の最重要コンテスト、セロニアス・モンク・コンペティションで優勝している。いわばドン・シャーリーにも通じる、エリート中のエリートだ。2014年のデビュー作『Heroes + Misfits』は、ヒップホップやR&Bの文脈を含んだ新世代のジャズであり、その作風と音楽的立ち位置も60年代のシャーリーとカブるところがある。ピアノはスタンウェイしか弾かない、というのも両者の共通点だ。
・オスカー受賞を見越して今週末公開に!『グリーンブック』の戦略とは?
本作のピアノの演奏シーンは、シャーリーを演じるマハーシャラ・アリの指の動きに合わせてバワーズが弾いたものだという。巡業先でのミュージカル曲「Happy Talk」や場末のバーでのショパン「木枯らしのエチュード」といった演奏シーンでは、シャーリーがいかに唯一無二の個性を持っていたかを説得力のある音色で聴かせる。2人の天才が時代を超えて、同じく演技の天才であるマハーシャラ・アリを“媒介”にセッションを楽しんでいるかのようだ。
●ピーター・ファレリー監督の総決算的仕事ぶり
『メリーに首ったけ』や『愛しのローズマリー』などの過去作品で、ピーター・ファレリー監督は決まって障害を持つ人や社会的マイノリティと呼ばれる人を作品に起用してきた。そして天才的なピアニストであるシャーリーも、内面には人に言えない“秘密”を抱えていることが劇中で明らかになる。カルト的シンガー・ソングライターのジョナサン・リッチマンを語り部として出演させたり、エジソン・ライトハウスの大ヒット曲をフィーチャーしたりといったポップな演出こそないが、ファレリー監督のメッセージは昔も今も何ら変わっていないというわけだ。
実在のドン・シャーリーとトニー・リップは、共に2013年に亡くなっているが、その交流は晩年まで続いていたという。ひどい差別の残るディープサウスへの道中で芽生えた2人の友情を、あくまでも陽性の笑いと涙でまとめ上げた『グリーンブック』。同じく作品賞の有力候補だった『ROMA/ローマ』とはアプローチこそ異なるものの、芯にある思いに大きな違いはない。そしてどちらも“ほぼ実話ベース”というのがまた興味深い。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
『グリーンブック』は3月1日より公開中。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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