俳優・錦戸亮の歩みと魅力に迫る!『コットンテール』では息子と父の2つの顔を披露

#コットンテール#この俳優に注目#錦戸亮#離婚しようよ

『コットンテール』
『コットンテール』
(C)2023 Magnolia Mae/ Office Shirous
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『コットンテール』
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リリー・フランキーと親子役を演じた『コットンテール』が公開中

【この俳優に注目】2019年に所属していた事務所から独立後、音楽活動を中心にしていた錦戸亮が俳優業も本格的に再開、出演した日英合作映画『コットンテール』が3月1日より公開中だ。

『コットンテール』では、長らく父と疎遠だった一人息子・慧を演じている。妻の遺言で、散骨のためにイギリスの湖水地方を訪れる父(リリー・フランキー)に同行し、妻子も連れて旅をする。その過程で、長い間抱え続けてきたわだかまりと向き合う不器用な父と息子を中心に、夫婦や親子、家族という関係の愛おしさが描かれる。

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主人公・兼三郎を演じるリリーと錦戸は、面差しというより全体の輪郭が似ていて、並ぶ姿がごく自然に親子に見える。それだけでも大成功のキャスティングだが、共演者として互いの最良の部分を引き出しているのが印象的だ。自分と距離を取り続けた作家の父親に反発しながら、それでも心の奥底に慕情を残す息子の様子が胸に迫る。

『コットンテール』

『コットンテール』
(C)2023 Magnolia Mae/ Office Shirous

フリーになって以降、アーティストしての楽曲リリースやライブ、YouTubeなどで活躍する錦戸だが、ここでは俳優としてのこれまでの歩みと魅力にフォーカスしたい。

軽薄な男にも実直な好青年にも変貌

10代からアイドルとしてのグループ活動と並行してドラマや映画にも出演してきた彼が大きく注目されたのは、2008年のドラマ『ラスト・フレンズ』(フジテレビ)だろう。恋人にDVを働き、ストーカーと化す男を迫真の演技で表現、強く印象づけた。同年に出演したドラマ『流星の絆』(TBS)では全く違う若者像を演じ、幅広い演技力を際立たせたのも鮮烈に記憶している。

ちゃらんぽらんな役では実に軽薄、だがスーツ姿で公務員(映画『県庁おもてなし課』や『羊の木』など)を演じると実直な好青年に変貌する。ドラマ『ジョーカー 許されざる捜査官』(2010年)の警察の鑑識員役は、いわば両者のハイブリッドだ。

錦戸亮という個を常に保ちつつ、それが演じるキャラクターとしてストーリーを語る邪魔にはならない。フィクションを見ているのに、つい「錦戸亮ってこんな人なんだ」と毎回思わされる。そういえば本人役を演じた『パパドル!』(2012年・TBS)というドラマもあった。

Netflix『離婚しようよ』では色気を振りまく

思いつめる人間の極端さ、あるいは“出来る男”でもなく自己主張もしない平凡さにもハマれば、Netflixのシリーズ『離婚しようよ』(2023年)のように主人公を振り回す役も本当に似合う。唯一無二の個性なのに、観客はいとも簡単に彼が演じる役に親しみも覚えたり、自己投影できるのだ。

『流星の絆』は、錦戸と脚本家・宮藤官九郎が出会った作品でもある。東野圭吾のミステリーを、大筋は尊重しつつ宮藤が大胆に脚色し、錦戸は二宮和也と戸田恵梨香と共に両親を殺されたきょうだい3人を演じた。コミカルな中にちょっとしたペーソスもある宮藤の世界に、社会と親和する錦戸の個性は気持ちいいほどにフィットし、2014年には宮藤脚本のドラマ『ごめんね青春!』(TBS)で主演を務め、昨年は宮藤が大石静と共同脚本を務めた『離婚しようよ』でも、色気を発散しまくる自称アーティストを演じている。

離婚しようよ

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『ちょんまげぷりん』では幼い鈴木福が懐いていたのが印象的

個人的に思い出深いのは映画初主演作『ちょんまげぷりん』(2010年)だ。現代にタイムスリップした江戸時代の侍・安兵衛を演じた。安兵衛はシングルマザーの家に居候することになって家事に勤しむうちにパティシエの才能を開花させる。生真面目で端正な武士らしさと21世紀の日常に慌てふためくギャップで、錦戸は絶妙なコメディ・センスを発揮した。

この作品の取材をした時、共演者で当時まだ就学前の鈴木福と接する錦戸が本当に素敵だった。変に子ども扱いせず、ちょっと素っ気ないくらいの態度で、 “福ちゃん”と呼ばれていた5歳児がそれをむしろ喜んで懐いていたのが印象に残っている。

娘を持つ父の表情も見せた『コットンテール』

対等でいて、愛情深く見守る眼差しを持つ彼は、20代の頃から父親役もよく演じてきた。『コットンテール』では息子としてのみならず、娘を持つ父親としての表情も見せている。

『コットンテール』

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(C)2023 Magnolia Mae/ Office Shirous

筆者が何度か彼に取材したのは10年以上前になるが、その度に “働く人”という印象を強く受けた。当時の彼に強く求められていたのはファンに夢を見せることだが、その夢をしっかり形にして見せるのと同時に「これは仕事」というフラットな感覚も隠さない。エンターテイナーとして手を抜かないプロ意識は、自身の生活を大切にして、そのために働くという、いい意味での割り切り方に直結していて清々しかった。

その率直さはおそらく今も変わらないのではないだろうか。独立した翌年に新型コロナウイルス感染拡大が重なり、しばらくは思うような活動は出来なかったはずだ。それでも自主レーベル「NOMAD RECORDS」から楽曲配信や日本武道館でのオンラインライブといった音楽活動を続け、赤西仁とYouTube「NO GOOD TV」を発信。垣間見える表情に、変わらない彼らしさを感じている。

出演作が相次ぎライブツアーも、2024年はさらなる飛躍の年に

2021年にAmazon Musicの企画で配信された『No Return』が久々の演技作品となった。音楽×短編映画の組み合わせは、『羊の木』の吉田大八監督との再タッグで、主題歌の「ジンクス」は監督とやりとりをしながら書き下ろしたもの。いわゆる商業映画よりも自由な発想の映像作品で、ソングライターとしても新しい挑戦になった。

2023年からは俳優としても本格的に再始動し、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK BSプレミアム/NHK BS4K)、『離婚しようよ』に続いて、今年は宮藤が脚本を務めるドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS)にゲスト出演、4月からは『Re:リベンジ-欲望の果てに-』(フジテレビ)にレギュラー出演する。そして2月からはライブツアーも始まっている。2024年以降、マルチアーティストとしてのさらなる活躍に期待が募る。(文:冨永由紀/映画ライター)

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