【週末シネマ】『パパは奮闘中!』
精一杯生きる姿が共感誘う
妻が家を出て行き、残された幼いわが子2人の育児をすることになった父親。『パパは奮闘中!』は、ダスティン・ホフマン主演の往年の名作『クレイマー、クレイマー』を思い出す設定だ。オンライン販売の倉庫で働く男性が、妻に任せきりだった家事のきりもりも担うことになり、職場と家庭で文字通り奮闘する姿を描く。
・パパもワンオペ育児に大苦戦!?/『パパは奮闘中!』ギヨーム・セネズ監督インタビュー
倉庫で1日の大半を過ごし、労働組合の活動にも携わる日々を送るオリヴィエは、まだ幼い息子オリヴィエと娘ローズの子育ても家事も、一切妻のローラに任せていた。そんなある朝、いつものように出勤前に「また今夜」とキスを交わしたのを最後にローラは姿を消してしまう。彼女の身の回りの品もなくなっていることから、事件性はなく家出であることは疑いないが、オリヴィエには心当たりがまるでない。
物語は、父親が不器用ながら懸命に子どもたちと向き合い、絆を深めていく過程を繊細に描いていく。同時に労働者としての顔、そして1人の男としての顔もおざなりにせずにすくい上げている。
ベルギー出身のギヨーム・セネズ監督自身が、妻と別れてシングルペアレントとして子育てをした経験がきっかけとなって本作は作られた。不慣れな家事に勤しむ主人公が漂わせるリアリティはそこから生まれてくるのだろう。仕事と家庭のバランスの取り方、ふと訪れる人恋しさや無力感は、大人なら誰でも経験があるものだ。90年代から『青春シンドローム』(74年)、『猫が行方不明』(96年)などセドリック・クラピッシュ監督作で活躍し、最近ではフランソワ・オゾン監督の『彼は秘密の女ともだち』(14年)などに出演、40代を迎えたフランスのスター俳優、ロマン・デュリスが市井の男を自然に演じている。
家族の話に終始せず、職場の労働組合や雇用についてのエピソードもしっかり描かれるが、それはオリヴィエの家庭に起きた出来事の原因に、現代社会の労働環境が大きく関わっているからと見ることもできる。フランス語の原題『Nos batailles』の意は“私たちの戦い”。戦い、愛し、日々を精一杯生きていく姿が共感を誘う。(文:冨永由紀/映画ライター)
『パパは奮闘中!』は4月27日より全国順次公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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