(…前編「Spotifyにもアップ中! バンドじゃないバンドの優しい“旅立ち”」より続く)
【映画を聴く】『ハーツ・ビート・ラウド』後編
良作家族映画としても注目!
すでに店を閉めることを決めたフランクは、数日前にSpotifyにアップした「Hearts Beat Loud」がとあるプレイリストの一曲として選ばれていることを知り、We’re Not a Bandの活動を本格化させようと機材を買い込む。長年の夢の実現に浮き足立つ父親と、恋や勉強に忙しい娘。しかしその熱量のコントラストを強くしすぎることなく、お互いを寛容に受け入れる点に、この作品の生成りで素朴な心地よさがある。
たとえば、本作が気になる人なら思い出すに違いないジョン・カーニー監督による3作『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』『シング・ストリート 未来へのうた』は、いずれも素晴らしいオリジナル曲を核に据えた、音楽ファンには忘れられない作品だが、そこには共通して「成功か停滞か」的な二者択一を迫る切実さが横たわっている。
フランクはテナントの大家に、早世のシンガー・ソングライター、ジェイソン・モリーナの歌声の素晴らしさを語り、地元で活躍するアニマル・コレクティヴのレコードを熱っぽく勧める。「店じまいセール」で叩き売られるトム・ウェイツの『Rain Dogs』を見て、サムは「3ドルじゃダメだよ」とフランクに言う。そんなやり取りをひとつひとつ挙げるまでもなく、本作は音楽ファンにとってかけがいのない作品になるだろう。加えて、親は子どもと話したくなるし、子どもは親のことが知りたくなる。そんな家族映画の良作として親しまれることにも期待したい。
『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』は6月7日より公開。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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