「宗教カルトからの脱会トラブルを想起」鈴木エイト、森達也らが“エドガルド・モルターラ誘拐事件”に迫る衝撃作へコメント
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青年期エドガルドを演じるレオナルド・マルテーゼのメッセージ映像も到着
イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ監督が、スピルバーグが映像化を断念した「エドガルド・モルターラ誘拐事件」に迫った衝撃作『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』。本作より、青年期エドガルドを演じるレオナルド・マルテーゼのメッセージ映像と、鈴木エイト、森達也、惣領冬実ら著名人のコメントを紹介する。
本作は、教会によるユダヤ人少年誘拐事件という前代未聞の史実「エドガルド・モルターラ誘拐事件」を題材としたベロッキオ監督の最新作。もとになった事件は、スティーヴン・スピルバーグが魅了され、映像化に向けて書籍の原作権を押さえたことでも知られている。
1858年、ボローニャのユダヤ人街で、教皇から派遣された兵士たちがモルターラ家に押し入る。枢機卿の命令で、何者かに洗礼を受けたとされる7歳になる息子エドガルドを連れ去りに来たのだ。取り乱したエドガルドの両親は、息子を取り戻すためにあらゆる手を尽くす。世論と国際的なユダヤ人社会に支えられ、モルターラ夫妻の闘いは急速に政治的な局面を迎える。しかし、教会とローマ教皇は、ますます揺らぎつつある権力を強化するために、エドガルドの返還に決して応じようとしなかった…。
今回紹介するのは、青年期のエドガルド・モルターラを演じたレオナルド・マルテーゼからのメッセージ映像。マルテーゼは、ジャンニ・アメリオ監督『蟻の王』(22年)のエットレ役に大抜擢されたのちに本作に出演。『蟻の王』と本作とでナストロ・ダルジェント賞グリエルモ・ビラーギ賞を獲得した。
レオナルドが演じるのは、幼少期に教会によってユダヤ人家族と引き裂かれながらも、敬虔なクリスチャンとして成長した20代のエドガルド。レオナルドは自身が演じたエドガルドについて、「心に問題を抱えるようになる。繊細な心の持ち主に成長するが、幼少期の経験による影響が大きい」と解説。「彼が自分を教会や教皇により変えられてしまったと考えるのか、またはこれが自分の望む人生だと考えるのか―本心はわかりません」と、その運命の複雑さについて慎重に語る。
ベロッキオ監督との初タッグについては「最高でした」と語り、1960年代から映画を撮り続け、第一線で活躍してきた「イタリアで最も偉大な映画監督の1人」との仕事を「光栄だった」と振り返る。宗教や精神はベロッキオが手掛け続けてきた得意な分野でもあると語り、「物語は力強く緊迫感があり、悲しい気持ちにもさせられる。心が揺さぶられる場面もあるから、これから見る人は心の準備をしてね」と結んでくれた。
また、いち早く本編を鑑賞した各界著名人よりコメントが到着した。鈴木エイト(ジャーナリスト、作家)、イタリアの歴史物語「チェーザレ 破壊の創造者」の作者である惣領冬実(漫画家)、映画監督の森達也、イタリア出身の精神科医であるパントー・フランチェスコ、イタリア美術研究者の壺屋めり、四方田犬彦(映画誌・比較文学)らによるコメントは以下の通り。
■鈴木エイト(ジャーナリスト・作家)
幼少期に家族のもとから連れ去られ、信仰や人格を変容させられたエドガルド。取り戻そうとする家族と青年になったエドガルドとの確執は、植え付けられた信仰を巡る宗教カルトからの脱会トラブルを想起させる。幸せな家族を引き裂いたものの正体を描いた問題作。
■惣領冬実(漫画家)
洗礼という儀式にすぎない行為が幼い子どもとその家族の人生を歪ませていく物語。見る人によっては混乱や怒りを覚えるかもしれません。さらに残酷なのはその子どもが宗教上の駒にされていく様です。考え方次第で狂気が正義となってしまう現実を思い知らされる作品です。
■パントーフランチェスコ(慶應義塾大学病院精神神経科教室、精神科医)
「あなたは神父となり、ローマ教会に人生を捧げるのだ」。時は 1858年。教皇法は「絶対もの」。ヘブライ人、7歳のエドガルド君に対しても。紡がれるのは宗教と世俗的な権力に汚された親の絶念、子どもの無垢さ、親子思いの不撓不屈の物語だ。神の掟は母の涙の目前でさえ屈しないものなのか? 魅惑的だが、残酷なイタリアを舞台にした夢中にさせる拉致事件。最後のフレームまで胸を膨らませる。
■森達也(映画監督)
ユダヤ教徒だったナザレのイエスは、ユダヤ教を内部改革しようとしてユダヤ教守旧派の企みで処刑された。その後にイエスの弟子たちが広めたキリスト教は西欧社会の精神的インフラとなり、イエスを殺害したユダヤ人への差別や迫害はさらに激しくなった。この前提を知らないと現在の宗教地図が理解できなくなる。世俗と聖性、心の支えだけど危険。本作では信仰の二面性がこれでもかとばかりに描かれる。際どいテーマだ。正面から挑んだマルコ・ベロッキオの胆力には驚嘆する。
■四方田犬彦(映画誌・比較文学)
ベロッキオはつねに社会に対し異議を唱えてきた監督である。子どもが監禁され、母親が狂気へ向かう。いたるところに暴力がある。この世界は病気であり、歴史とは母親の悲しみなのだ。だが母親と違う神を信じるにいたった息子の悲しみを、誰が知ることだろう。
■壺屋めり(イタリア美術史研究者)
ある家族が強引に離ればなれにされ、永遠に引き裂かれてしまう悲劇の物語を丁寧に描きながら、同時に教会権力の衰退とイタリアという国の誕生につながる壮大な歴史をも見せてくる。このミクロとマクロを同時に描く離れ業こそ、ベロッキオ監督作品の醍醐味だ。
■信田さよ子(原宿カウンセリングセンター顧問・公認心理師)
約150年前の誘拐事件を描く本作は現代にも通じる多くの課題を突きつけている。信仰をめぐる戦争とカルト教団による洗脳は現在も続いているからだ。それに加えて、子どもの人格形成や親子のつながりとは何かという重い問いは見る者を揺さぶるに違いない。
『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』は、4月26日より全国公開。
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