自由な関係にゆるやかな時の流れ、全てが心地よい! PCも携帯も持たないギター職人のドキュメンタリー

#レビュー#週末シネマ#カーマイン・ストリート・ギター

『カーマイン・ストリート・ギター』
(C)MMXV? Sphinx Productions.
『カーマイン・ストリート・ギター』
(C)MMXV? Sphinx Productions.

ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのカーマイン・ストリートにあるギター・ショップ、そこでユニークなギターを作り続けている職人の日常を追ったドキュメンタリー『カーマイン・ストリート・ギター』。魅力的な楽器とそれを作る人、関わる人々、存在する場所、全てが心地よい。

[動画]『カーマイン・ストリート・ギター』予告編

何十年も時が止まったままのように見える店の工房では、ギター職人のリック・ケリーが市内から集めてきた建物の廃材を使ってギターを作っている。中にはチェルシー・ホテルやトリニティ教会といったNYのランドマークと言うべき場所から出たものもある。そんな「ニューヨークの骨」を、街を歩き回って集めるリックはコンピュータも携帯も持たず、一度は役割を終えた廃材にギターという新たな命を与えるのだ。200年近く前の木材など、それだけの年月を経てきたストーリーがあり、キズや汚れも得難い味になる。そんな世界に2つとないギターに魅了され、ボブ・ディランや故ルー・リード、パティ・スミスなど大物ミュージシャンがリックのギターを愛用している。

本作は、ギター・ショップの1週間を描いているが、その間、ひっきりなしに顧客が訪ねてくる。ビル・フリゼール、ネルス・クライン(ウィルコ)、ジェイミー・ヒンス、チャーリー・セクストンに映画監督のジム・ジャームッシュも訪れる。実はジャームッシュが自宅の木材からギターを作ってもらおうと持ち込んだことが、再生木材を使うリックのギター作りの原点となった。彼らとの肩に力の入らないフレンドリーなやりとりが楽しい。店番や電話番などをこなすリックの母親、パンクファッションに身を包んだ弟子のシンディの存在もいい。彼女は父娘ほど歳の差があるリックとタメ口モードで接するが、師匠に対する尊敬が根底にあり、この独特な関係も面白い。

リックは変に気難しいところなどなく、紳士的で丁寧な仕事をする。物語を持つギターがもたらす人と人の自由な関わり方、ゆるやかな時間の流れなど、忙しない日々を送る人にこそ見てもらいたいオアシスのような作品。ギターを弾く人はもちろん、触ったことのない人でも、その魅力は十分に感じ取れるはずだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『カーマイン・ストリート・ギター』は全国順次公開中。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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