【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第4回】
旅行が好きです。
ありがたいことに落語で全国津々浦々行かせていただく機会もありますが、やはり仕事を絡めず純粋に旅するのが好きです。
暖かい季節に行く瀬戸内は格別。
広島、岡山、香川、愛媛、間にある淡路島、小豆島の島々。
目当ては旨いご飯と喫茶店。そして映画館。
今回の旅先は尾道。
「シネマ尾道」に1度行ってみたかった。
尾道に唯一ある映画館。
112席1スクリーンのミニシアター。
河本清順さん(彼女の祖父が大好きだったという鈴木清順監督から取ったというお名前。ネットで調べました)という女性が2008年に誕生させたそうで、映画人たちがこぞって訪れるそうです。
もちろんネットで調べました。
尾道駅を降りると瀬戸内の海が運んでくる柔らかい風がぼくを迎えてくれる。
まずは趣きのある喫茶店でコーヒーを飲んで、坂の街でもある尾道散歩。
大好きな長崎よりも傾斜がきつい。
お寺がたくさんあるので観光客も多い。
わざわざ坂道散歩をするくらいの人たちだから、みんな穏やかにのんびり歩いている。
猫も多い。
猫も穏やか。
迷わないように至るところに道案内の看板が民家に立て掛けてある。
日なたぼっこしてたおばあちゃんが話しかけてくれた。
「坂道で疲れるから街への買い物は週に1度だけだね〜。重いからそんなに荷物持てないね〜。本当はもっとお菓子食べたいね〜」
持参していたグミを差し出したら
「それはいらないね〜。歯に詰まるから〜」
決して目立たず、うっかりしてると見落としてしまうような路地に、それはあるもの。
有名な観光地の駅前にあるようなラーメン屋は、いちばん人が集まりやすく、海外からの観光客を相手にしているところもあるので、非常に最大公約数的な味なんです。
そういうのは好みじゃないので、自分の鼻を信じて歩いていると、地元の人が集うラーメン屋を発見しました。
よほど美味しいとみえて行列。
並んでみたが列はなかなか進まない。
大林宣彦さんの尾道を舞台にした映画『転校生』よろしく、最前列のおじさんと心と体が入れ替わるといいなと思いましたが、そんなに都合よくいくわけないし、元に戻らなくなったら嫌なので列から離脱しました。
おなかもペコペコだったし、空いてるところもないので、仕方なく駅前の尾道ラーメン「たに」に渋々入店。
予想通り外国人観光客も多かったので、期待もしていなかったのだが、これがバカうま!
今まで食べたラーメンNo.1に躍り出た!
背脂たっぷりながらもあっさりして、大盛りにしなかったことを悔いたほど。
追加で頼んだチャーハンも旨すぎ!
しっとりチャーハンNo.1。
なにが旅の上級者だ。
ちゃんちゃらおかしい。
なんにもわかっていなかった。
旅先にて己の無能さを痛感。
旅をして人は成長する。
おじさんと入れ替わってなくて良かった。
腹を満たして、いざシネマ尾道。
着いた頃には上映時間が過ぎていた。
ネットで調べないからだ!
でもそれもまたよし。
また尾道に戻ってくる理由ができたから。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
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