【週末シネマ】『マリッジ・ストーリー』
エスカレートしていく様子はライブ映像のような迫力!
前作『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(17)がウェブ配信作として初めてカンヌ国際映画祭に出品された1本(もう1本は『オクジャ/okja』)となったノア・バームバック監督。新作『マリッジ・ストーリー』もNetflix配信作だ。
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ズバリ、結婚の物語と題された映画は、妻と夫がそれぞれ相手について好きなところを語るナレーションから始まる。愛情深く相手を見つめ続けて来なければ出てこないような、細やかで温かな着眼点は微笑ましく、幸せな家庭の日常がうかがえる。だが、彼らは破局の危機にあるのだ。
かつて出世作『イカとクジラ』でニューヨークを舞台に、離婚する両親の間で引き裂かれる兄弟を描いたノア・バームバックが、アダム・ドライヴァーとスカーレット・ヨハンソンを主演に迎え、今度は離婚の当事者である夫婦を主人公に据えた。どちらの作品もバームバック自身の体験を元にしている。
ニューヨークで自らの劇団を率いる演出家のチャーリーと妻で劇団の看板女優のニコールが主人公だ。ニコールは10代の頃は青春映画のスターだった。冒頭のシーンは2人が通う結婚カウンセラーでのセッションの一環だが、ニコールは離婚の意志が固く、故郷のロサンゼルスでの仕事を決めると、幼い息子のヘンリーを連れて実家へ戻る。仕事でニューヨークを離れられないチャーリーは、それでも時間を見つけて赴いたロサンゼルスで離婚届けを手渡される。本人たちは穏便に離婚を進めるつもりでいたのに、一人息子の親権が介在すると話は変わってくる。双方の弁護士は戦闘モードで、あっという間に泥沼化していく。
他のキャストも名演を見せる。ローラ・ダーンが演じるニコールの弁護士が、世間一般の「良き母親像」についてぶちまける本音には大きく頷いた。チャーリーの弁護士を演じる、レイ・リオッタのいかにもなアグレッシブな冷徹さ、アラン・アルダの老練さ、ニコールの母と姉(ジュリー・ハガティ、メリット・ウェヴァー)のコメディリリーフ的な存在もいい。
弁護士たちは事を荒立てようとするが、それが彼らの戦術であり、離婚する者同士は憎み合って決着をつけた方が、むしろ互いが心に負う傷は浅くて済むのではないか。そんな気さえしてくるのが、チャーリーとニコールが2人きりで話し合う場面だ。
言い合いが次第にエスカレートしていく様子はライブ映像のような迫真性で、見ているのが苦しくなるほどだ。パートナーと生きていくというのは我慢の積み重ね、とよく言われるが、その果てに、暴言なのか本音なのか、言ってはならない言葉が飛びだす。これは深読みしすぎかもしれないが、あそこまで火がつき、的確に相手の急所を突く言葉が飛び交うのは、応酬の間合いの完璧さも含めてこのカップルが演劇人であることも少し関わりがあるのではないかと思った。
結婚とは何か。離婚とは何か。まともな感覚の2人が感情的に傷つき、互いに対して醜さをむき出しにする。そして、物語はそこで終わりはしない。泣けて笑える映画だが、ここで泣くのか、ここで笑うのか、と自分自身の反応に驚くはず。それほど新しく、同時に普遍的な結婚の物語だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『マリッジ・ストーリー』は12月6日よりNetflixにて配信中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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