【映画を聴く】『フィッシャーマンズ・ソング〜』前編
日本人にとっての舟唄とは? 日本三大舟唄の「音戸の舟唄」「最上川舟唄」「淀川三十石船舟唄」か。自身も遠洋漁船に乗っていたという鳥羽一郎の「海賊の舟唄」や「兄弟船」か。その名もずばりの八代亜紀「舟唄」か。加山雄三「光進丸」、はっぴいえんど「無風状態」、海援隊「初めは小さな舟を漕げ」、長渕剛「Captain of the Ship」あたりも広い意味では舟唄に含まれるかもしれない。
・普通のおじさんたちが世界に“発見”される過程が感動呼ぶ/【映画を聴く】『フィッシャーマンズ・ソング〜』後編
ではイギリス人にとっての舟唄とは? 答えはすべて映画『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』の中にある。オープニングのあと間もなく“1752年のロックンロール”として歌われる「John Kanaka」に始まり、大団円で歌われる「No Hopers, Jokers & Rogues」まで。イギリス人の暮らしに浸透した伝承曲の数々が劇中で歌われる本作は、年明け早々届けられた最高に清々しい“舟唄ミュージカル”だ。
ネイビーや黒のPコート、いい感じに色落ちしたジーンズとワークブーツでキメた無精髭のおじさんがずらりと10人。長年、潮風と日光にさらされてきた顔は皺だらけで赤みを帯びているが、それがかえって屈託のない笑顔にヴィンテージな味わいを加えている。作品のメインビジュアルを飾るこの男たちは、Fisherman’s Friends(フィッシャーマンズ・フレンズ)という現役漁師ばかりで結成された実在のアカペラコーラスグループをモデルにしている。
グループ名は、イギリス人によく知られたミント系タブレット「Fisherman’s Friend」から拝借したもの。たとえば舟唄からもう少しイメージを広げて“海について歌うアーティスト”ということで考えてみれば、ビーチ・ボーイズやジャン&ディーン、ジャック・ジョンソン、ドノヴァン・フランケンレイター、サザンオールスターズ、TUBE、湘南乃風など、国内外の様々なアーティストの名前が浮かんでくる。しかしフィッシャーマンズ・フレンズの立ち位置は、そのどれとも被っていない。なぜなら彼らはリゾート地でもプレイスポットでもなく、一貫して生活の場としての海、時には人の命を奪う脅威としての海の歌しか歌っていないから。それこそフィッシャーマンズ・フレンズが島国イギリスで宿命的に愛される理由であり、彼らの舟唄が“本物”であることの証である。
イギリス人にとってのある種のブルースを多分に含んだ舟唄を、陽気に力強く、腹の底から歌い上げるフィッシャーマンズ・フレンズ。メンバーを演じるのは、『ROMA/ローマ』のジェームズ・ピュアホイや『わたしは、ダニエル・ブレイク』のデイヴ・ジョーンズといったベテラン勢。ピュアホイはタートルネックのフィッシャーマンニットが、ジョーンズはくたびれたマリンキャップがよく似合っている。グループのホームグラウンドであるポート・アイザックの実際のパブなどを使ったロケーションも、イギリス音楽ファンにはたまらない。実際のメンバーも全員、ちょいちょいカメオ出演しているという。(後編へ続く…)
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