佐野元春、『大いなる不在』を絶賛「『今、何処』という曲が『ここしかない』という場面で聴こえてきた」

#佐野元春#大いなる不在#映画#森山未來#藤竜也#近浦啓

『大いなる不在』
(C)2023 クレイテプス
『大いなる不在』
『大いなる不在』
『大いなる不在』
『大いなる不在』

『大いなる不在』スペシャルトークイベントに佐野元春と近浦啓監督が登壇!

映画『大いなる不在』のスペシャルトークイベントが、8月20日にTOHOシネマズ日比谷にて行なわれ、本作に佐野元春&THE COYOTE BANDとしてエンディングテーマ「今、何処」を提供している佐野元春と近浦啓監督が登壇。作品への思いを語り合った。

・【動画】佐野元春「今、何処」という曲が「ここしかない」という場面で聴こえてきた/映画『大いなる不在』近浦啓監督とのトークイベント

・藤竜也、NYで『愛のコリーダ』上映できず「犯罪者か何かになったような気分だった」流暢な英語で50年前を振り返るト

近浦監督は、これまで佐野のライブドキュメンタリーやミュージックビデオなどを数多く手がけており、長い付き合いであるが、実は映画について深く語り合うのは今回が初めてとのこと。

今回、佐野の楽曲がエンディングテーマとして使われることになった経緯について、近浦監督は「この作品は2022年の春に撮影したんですが、撮影の数ヵ月後にラフに編集をまとめていた時、エンディングの部分で、森山未來さんが演じる卓のバックショットで暗転するところは脚本通りで良い形になっていたんですが、そこにすぐにエンドロールが入るのはリズム的に違うなと思っていて『少し間がほしい』と思い、通常はオープニングに置くクレジットをエンドロールの前に置いたんです。ただ、最初は適切な音楽が見つからず、アンビエント(現場の空間)の音でつくっていました。どうしてもエンディングが決まらないなって思っていた時、たまたま佐野さんのアルバム『今、何処』の特典DVDのアッセンブリ(組み立て)の作業をしていて、その時、ひとつのシークエンスであの曲(「今、何処」)が流れてきて、その音を聴いて一気に『これは何だろう?』と思いました…。それで、発売前に佐野さんに『この曲だけ聴かせてもらえませんか?』とお願いしました。でも、その時には心を決めていましたね。『これがこの映画の終わりだ』とハッキリ見えました」と明かす。

『大いなる不在』

佐野は「10代の頃から映画は好きで、映画の中での音楽の使われ方に特に関心を持っていましたが、今回、『今、何処』という曲が、映画の中で本当に『ここしかない』という場面で、聴こえてきた時に『素晴らしいな』と思ったのと同時に、自分の音楽がこの素晴らしい映画に少しでも貢献できたなという思いがあって光栄に思いました」と語る。

ちなみに、アルバムタイトルである『今、何処』の英語タイトルが『Where Are You Now』であるのに対し、本作のエンディングテーマであり、アルバムのラストナンバーでもある「今、何処」の英語タイトルは「Where Are We Now」となっている。「You」と「We」の違いについて近浦監督が「心を惹かれました」と明かし、その意図を佐野に質問。佐野は「アルバムをつくる時、『Where Are You Now』というストーリーで始めたわけですが、アルバムの中でもストーリーが紡がれて、その最後にセットした曲として『Where Are We Now』で終わるのがいいのかなという思いでタイトルをつけました」と説明する。

近浦監督は、佐野の説明にうなずきつつ「企画がスタートしたのがコロナ禍のパンデミックが始まった2020年の4月で、街に人がいなくなって、世の中が大きく変わった時に“不在”という言葉を軸に物語をつくっていったので、この楽曲を聴いた時、不思議なリンク——“不在”に対して『今、何処』というのが、僕の中で良い偶然を感じました」と語る。

佐野も「映画を何度も拝見しまして、見終わった後、映画に登場した人々、彼らを取り巻く他の人たちの魂はいま、どこにあるんだろう? どこに行くんだろう?という思いが残りました。そういう意味でも『今、何処』を使っていただいたのは、すごく計算されているし、コンセプチュアルだし、的を射ているし、同時にエモーショナルだと思いました」としみじみと語った。

近浦監督にとって、本作は初めて35ミリフィルムでの撮影に挑戦した作品となったが、佐野は「映像に詩情、ポエジーが感じられた」と明かし、「最初に心惹かれたのは、卓夫妻が施設から帰ってくる時に長回しで風の吹く坂道をキャメラがじーっと撮っているんですね。予想した以上に長い時間で、そこにセリフもなかったですが、ポエジーを感じました。そこで語られている情感を汲み取らなくてはいけない——同時に映画を見始めてから、没入していったきっかけとなる素晴らしいシーンでした」と称賛を贈る。

『大いなる不在』

近浦監督は、そのシーンについて「偶然、風が吹いたんです。たまに直感が働くんですが、リハーサルの時は普通に歩いてもらったんですが、風が吹きそうだなと思い、本番直前に真木よう子さんのところに行って『一度、ここで立ち止まってください』とお願いしたら、テイク1で立ち止まった瞬間に風が吹き始めました」と明かし、佐野がそうしたディテールを汲み取ってくれたことに嬉しそうに笑みを浮かべていた。

トークの最後に佐野は「僕の楽曲がこのような形で素晴らしい映画に使われまして、こういう経験は初めてですが本当に光栄に思います。近浦監督の映画は(長編デビュー作の)『コンプリシティ/優しい共犯』から見ていますが、次に彼がどんな作品を撮るのか楽しみです」と語り、会場は温かい拍手に包まれる。そして近浦監督は「今回、こういう形で楽曲を提供していただき、コラボレーションできたことを嬉しく思います」と語り、トークイベントは幕を閉じた。

『大いなる不在』は現在公開中。