(…2「売りにするだけはある熱量高いシーンの数々に不安も一掃」より続く)
【元ネタ比較】『性の劇薬』3
「生」を取り戻す再生の物語に
水田ゆき原作による過激なBLコミック「性の劇薬」がR18+指定で実写映画化された。
序盤の監禁してからの調教シーンはいよいよ始まるのか? どんな18禁シーンになっているのだろう!?と思っていると、わりとあっさりと展開し、まあこんなものかと思う程度。でも、期待していたファンはガッカリすることはない。後半になるに連れてエロシーンは濃密になっていく。きっと原作のファンにも満足してもらえることだろう。
この作品におけるエロは単なる扇情的なシーンとは違う。自暴自棄になった桂木が「性」を感じることによって「生」を取り戻していく再生の物語にもなっている。「性」の部分を生温く描いては理屈や感情を超えて桂木がたどり着く境地を伝えることができないだろう。そういう意味でもR18+の指定を辞さずに描いた挑戦は成功していると言っていいだろう。
もうひとつ特筆すべき挑戦は、実は原作を改変しているところだ。いちばん大きな改変は余田の過去だろう。詳しくは見てのお楽しみとしたいが、筆者としてはこの改変は実写化するにあたって賢明な選択だと評価したい。
ひとつ言えるのは、2次元のコミックはあまりリアルでない表現も受け入れられやすい。ノンケ同士が恋に落ちて肉体関係を持つBLファンタジー的な展開も少なくはなく、漫画読者はたいてい複数の作品を読むからそういったファンタジーに対するリテラシーも高い。ただ、実写の映像作品となると俳優それぞれのファンやBLに詳しくない映画好きも見るから、一般的なわかりやすさが求められる。
また生身の俳優が演じることによって、リアルでないファンタジー部分はぎこちなく浮いてしまう危険性もある。そして、この過去があるから余田の桂木への執着と愛情もさらにわかりやすく伝わってくるとさえ思える。そういった面をかんがみて、この改変は適切で作品をより良いものにしていると思う。いちBLファンとしても、BLってやっぱり理解しづらい奇妙なものと思われてしまうのは悲しい。この作品をきっかけにBLの理解が深まって、興味を持ってくれる人が増えるといいと期待している。(文:矢野絢子/ライター)
『性の劇薬』は2月14日より公開。
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