【週末シネマ】『レ・ミゼラブル』
衝撃的ラストシーンに圧倒される
ここ数年、パリ郊外の低所得者や移民が多い地域に暮らす青少年が心ある教育者と出会って活路を見出すフランス映画を何本か見てきた。『レ・ミゼラブル』はそういう機会に恵まれずに生きる大多数の現実を描いている。
・『パラサイト』興収33億円超でヒット新記録、ホラーでも久々のヒット作登場
パリ郊外のモンフェルメイユは、ヴィクトル・ユゴー原作でミュージカル版が広く知られる『レ・ミゼラブル』に登場する実在の町。そこで生まれ育ったラジ・リ監督がドキュメンタリー作品で培った手法で、2005年に実際に起きた暴動を題材に、犯罪や非行が広がる町を制圧しようとする警察と、それぞれ異なる背景を持つ多民族の住民との対立を描いていく。
監督にとって長編劇映画デビュー作であり、昨年の第72回カンヌ国際映画祭で『パラサイト 半地下の家族』とコンペ部門で競い、審査員賞を受賞した。
人種の壁なく人々が喜び合う冒頭のわずかな夢の時間の後、パリから10数キロという距離のモンフェルメイユに赴任してきた白人の警察官ステファンの目を介して、町が描かれていく。白人とアフリカ系の同僚2人とのパトロールで彼が目にするのは、白人警官の高圧的な振舞い、町を牛耳るギャング、今はまだ他愛ない悪戯に興じる少年たち、非行から足を洗って信仰を深めるムスリムの青年、グレーゾーンの部分が圧倒的に大きい“町の公正”だ。あちこちで小さな争いが頻発し、合間にちょっと間抜けなエピソードを挟み、緊張と緩和を繰り返しながら、状況は次第に緊迫していく。
物語は、ロマが率いるサーカス団が窃盗被害を訴えて町になぐりこみをかけてきたのを機に大きくうねりだす。主役は町だ。そこに暮らす1人1人を描くことで、モンフェルメイユというコミュニティを活写し、コミュニティの実像を通して社会を描いている。権力を振りかざす警察の中にも様々な背景を持つ者たちがいる。肌の色の違いだけで乱暴に決めてはならない個々のアイデンティティについて、多様性や包摂性という言葉を掲げて済まそうとする風潮への痛烈なメッセージが伝わってくる。
スパイク・リー監督の代表作『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89)や、1967年のデトロイト暴動の実話を描いた『デトロイト』(17)などアメリカ映画も想起させるダイナミックな語り口も魅力的だ。タフな不良ばかりではなく、1人でドローンを飛ばす地味な少年が鍵となる展開には “現代”を実感した。そして、ラストシーンにみなぎるエネルギーの凄まじさに圧倒される。この衝撃と余韻はいつまでも残りそうだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『レ・ミゼラブル』は2月28日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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