欧州で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染者が、国内で初めて確認されてから、およそ1ヵ月半が経過したイギリス。政府が対応策を1週間のうちに次々と打ち出したことで、大都市ロンドンの街の様子も様変わりしてきている。
・新型コロナ感染拡大でベッカムらが在宅の呼びかけ! 陽性反応のスターも次々
感染者数の上昇が急激なカーブを描いていることに危機感を募らせたイギリス政府は、現地時間3月16日、新型コロナウイルス対策として、これまでの手洗いの徹底に加えて、不要不急の外出や他人との接触を控え、自宅で仕事をするよう呼びかけた。さらに18日には、20日から公立の小中高等学校の一斉休校に踏み切ることを発表。これを受けて、イギリス国内の映画館チェーン「Odeon」「Cineworld」「Vue」などは全館休業を発表した。ロンドン市民の足であるTube(地下鉄)も運行ダイヤを減らし、部分的に駅を閉鎖した。
政府は20日、今度は「可能な限り今晩から」、レストラン・カフェ・パブ・バーに休業するよう要請。事実上の営業停止命令だ。ナイトクラブ・劇場・映画館・ジム・レジャーセンターも対象となるが、飲食店のテイクアウト販売は例外となる。早期に休校などの措置に踏み切った隣国アイルランドとは対象的に、ジョンソン首相は会見する度に要請を“小出し”にし、逆に市民を混乱させているようにも思える。
20日に店舗が集まる通りを歩いてみると、マスクをしている人やマフラーで口元を覆っている人が以前より増えた。スーパーマーケットに行ってみると、パスタに冷凍食品、肉や野菜の棚までスカスカになっている。18日の一斉休校発表直後の19日朝には、大型店に開店前から行列ができたそうなので、あらかた買い占められた後という感じだ。店内には「同商品は1人2個まで」というアナウンスが繰り返し流れ、買い物客も空っぽの棚を見て唖然とするが、それでも残っている商品をカゴに入れていく。
感染者数が増え始めた2月頃、イギリスのツイッターでは買い占めを意味する「#panic buying」「#toiletpaper crisis」のハッシュタグがトレンド入り。薬局ではトイレットペーパーとハンドソープ・除菌ジェルが瞬く間に売り切れ、食料品店ではパスタや缶詰など長期保存のきく食品の品薄が始まった。店側は個数制限を設けて買い占めをしないよう顧客に求め、“パニック”は少し落ち着いたように見えたが、政府の発表を受けてまた再燃してしまったようだ。ただ大手チェーンではない、個人商店にはまだ商品が並んでおり、まったく何も買えないという訳ではない。
日本で中国やアメリカの状況が逐次報道されるように、イギリスにもEU諸国の国境封鎖や外出禁止、移動制限といったニュースが連日飛び込んでくる。まだ外出が禁止された訳ではないが、一連の政府の動きを見て「いよいよ我が国でもLockdown(封鎖)が始まる」と恐れる市民が大勢いても不思議ではない。
飲食店に休業要請が出されてから最初の週末となった22日の日曜日、再び通りを歩いてみると、どこもシャッターが閉まっていて閑散としており、スーパー周辺にしか人気がない。だが近所の公園まで足を伸ばしてみると、たくさんのロンドン市民が! 大人から子どもまで、犬の散歩やサイクリングを楽しんでいる。美術館も博物館も一斉に休業となった今、市内に点在する公園は、市民に残された唯一の憩いの場だ。大型スーパーで感じた殺伐とした雰囲気とは真逆の、穏やかな春の空気がそこには流れていた。
(Sara Suzuki/London)
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