今年1月からNetflixで配信中のドキュメンタリー『パンデミック ―知られざるインフルエンザの脅威―』は、毎年猛威を振るうインフルエンザについて、感染拡大の原因や症例、対策に取り組む医療従事者や研究者の活動に迫る全6話のシリーズ。原題の副題が示すように「アウトブレイク(感染症の集団発生)の防ぎ方」に焦点が置かれていることから、今まさに見ておきたいシリーズだ。
・最初は「ヒットしない」と言われた大ヒット映画、その裏話が面白すぎる!
本作の撮影は新型コロナウイルス症例が報告される前の2019年に行われているので、話題はインフルエンザとエボラ出血熱について。大都市のニューヨーク、オクラホマ州の小さな郡病院、メキシコ国境近くのテキサス州、インド、コンゴ民主共和国など、世界各地で感染症のアウトブレイク対策に携わる9人を追いながら、インフルエンザのメカニズムや新型ウイルスの脅威、いかに集団感染(アウトブレイク)が発生し、世界中に広がっていく(パンデミック)かを示していく。
大都市と地方の医療格差、移民問題、あらゆるインフルエンザに対応する万能ワクチンの開発、子どもへの予防接種を拒否する運動を起こす親たち、豚インフルエンザ大流行に追われるインドの病院、コンゴ民主共和国で発生した致死率の高いエボラ出血熱に対応するWHO職員。感染症と医療をめぐる現実が様々な角度から掘り起こされ、当事者たちの人となりや私生活も紹介される。彼らにとって、宗教と信仰が大きな意味を持つことも伝わってくる。
ニューヨーク市特別病原体プログラムの責任者、米国際開発庁新脅威対策課責任者をはじめ、登場する専門家たちは、1918年に世界各地で多くの死者を出したインフルエンザを例に挙げ、「次のパンデミックは、“もし”ではなく、“いつ”起きるのか?が問題だ」「いつ、どこで、はわからないが、必ず起きる」と警鐘を鳴らす。人口も病院も少ない地方の医師は、72時間連続勤務で病院で寝起きしながら、「こんな小さな町でパンデミックが起きたら」と憂う。
2020年4月の世界で起きていることはすでに予測され、このドキュメンタリーの中で語られていたことだ。ニューヨーク市病院で行われたインフルエンザ対策ワークショップの光景は、今や世界各地の病院で現実のものとなっている。作品中で麻疹の予防接種も取り上げているが、ユニセフ(国連児童基金)は先日、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、1億人超の子どもが予防接種を受ける機会を逃すおそれがあると発表した。ウイルスそのものの脅威と大きな弊害が見えてきた。
新しいウイルスとのつき合いは長いものになることは間違いない。これからどう向き合うのか。1話40〜50分の本作を、まず全編通して見て、理解が深まったところで気になるテーマを再チェックするのを勧めたい。
もう1本紹介したいのは2011年のスティーヴン・ソダーバーグ監督作『コンテイジョン』。ずばり「感染」というタイトルの本作は、未知のウイルスが蔓延し、社会がパニックに陥っていく過程を描く。出張先の海外で感染したことに気づかず、アメリカへ帰国後に発症してあっという間に命を落としてしまう女性(グウィネス・パルトロウ)の夫(マット・デイモン)を主人公に、デマや陰謀論に振り回される市井の人々の混乱と、東京や香港、ロンドンと世界中に猛スピードで感染が拡大する中で調査に乗り出すアメリカ疾病対策センター(CDC)や世界保健機構(WHO)の職員たちの活動を並行して描く。
咳を手のひらで押さえ、同じ手でグラスを持ち、カードで支払いをし……と手の触った箇所からウイルスが広がるのを想像させる描写、我が身可愛さの利己的な行動など、今の私たちには実感のある場面の連続だ。パルトロウは未知の病の恐ろしさを伝える迫真の演技を見せる。デマで世間を煽動するブロガーをジュード・ロウ、研究者役をケイト・ウィンスレット、マリオン・コティヤールが演じる豪華キャストだ。
9年前、東日本大震災のあった年の秋に公開された本作のキャッチコピーは「恐怖は、ウイルスより早く感染する」。日本の現状は果たしてどうだろうか。(文:冨永由紀/映画ライター)
『パンデミック ―知られざるインフルエンザの脅威―』『コンテイジョン』はNetflixで配信中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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