これぞオトナの趣味、とそれぞれ思い描くものがあるんじゃないだろうか。
たとえば美術鑑賞とか、ガーデニングとか、陶芸とか、そば打ちとか、コーヒーを豆から淹れるとか…例を挙げればキリがない。
もうすぐ30代に突入する筆者。結婚もしていないし子どももいない。このまま独身ライフを謳歌するのであれば、一生続く趣味が欲しいと思い悩むところなのだが、すでにあるので老後まで心配がない。
・【鯉八の映画でもみるか。】こんなときは、沖縄音楽の爽やかな深みを感じられるこんな映画でもみるか
落語である。この趣味を人に話すと「オトナ」とか「知的」とか「おしゃれ」とか勝手に思われるのでものすごくおすすめだ。他人に高評価されるのは置いておいても、とにかく楽しい。面白い。
人々に落語のイメージを聞いてみると、「笑点の大喜利?」という人が多いのだが、あれはただ落語家が出ているだけの大喜利番組なので違います。簡単に言うと、江戸時代から続くすべらない話が古典落語。昔の面白い人が作ったすべらない話を代々引き継いで、上手にアレンジしているのが落語家だ、と私は思っている。
いろんな落語の雑誌や記事を見ていて、「好きな落語家は?」「天才だと思う落語家は?」というアンケートで必ず上位にランクインしているのが、春風亭一之輔。42歳で、だいたいそういったランキングの中では最年少である(40代で最年少って誤植かよと思った方は、笑点メンバーをご想像ください)。21人抜きで真打昇進しただけあって、落語協会折り紙つきの天才なのだ。
そんな一之輔の落語が、無料でバンバン見られる機会ができた。YouTubeで行われた「春風亭一之輔の10日連続落語生配信」だ。4月21日から10日間、東京・上野の鈴本演芸場でトリを務める予定だった一之輔が、高座に上がる予定だった時間に合わせて配信をしてくれるという、なんともぜいたくな企画である。
ただ10日分の動画を見るのは大変だと思うので、おすすめをご紹介したい。第5夜の「青菜」だ。高貴なお屋敷に仕事へ行った植木屋が、主人と奥方の洒落のきいたやり取りを見て、その風流なさまに感心し、家に帰って自分の女房と同じやり取りをしたい、と試みるが…というお噺。
ここが面白い、と解説するのは野暮だと思うし、それぞれの主観による。面白いという以外にすすめる理由は二つあって、一つは「青菜」が夏の噺だから。とくに前半の、夏の夕暮れ時に打ち水がされた庭先での、植木屋と主人の暑い日ならではの会話や、冷えた柳影、氷に載せた鯉のあらい…日本の夏らしい、趣のある情景がありありと浮かぶではないか。自粛自粛の毎日で外なんかろくに出られないんだから、せめて落語で季節を感じるのもいいだろう。
もう一つ、これが落語のすごいところだと思うのだが、植木屋がお屋敷から帰る際に「大仰なことを言う、金持ちは。無駄が多いんだよ無駄が」と発するのだ。たまにこういうちょっとした一言にハッとする。一之輔ならではの皮肉だ。金持ちは無駄が多い。というか金持ちだから無駄ができる余裕を持てる。なるほど、私に余裕がないのは…とか当たり前のことに気づいたりする。
こんなふうに季節を感じたりハッとしたりして、聞いていると生活がちょっと潤うのが落語。その上に好きだと語れば勝手にオトナだと思われる。こんなにお得で一生続けられる趣味があっていいのだろうか。(文:川崎るぽ)
※「春風亭一之輔の10日連続落語生配信」は「春風亭一之輔チャンネル」にてチェック。また、浅草演芸ホールでトリを務めるはずだった「5月下席」(5月21日〜30日)にも同チャンネルで10日間連続生配信を行う予定。(春風亭一之輔チャンネルはこちら→ https://bit.ly/2WPG0F6 )
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