松坂桃李&芳根京子起用の理由は「素直さと聞く表情」『雪の花』小泉堯史監督がキャスティングの理由を明かす
吉村昭の歴史小説「雪の花」を原作とする映画『雪の花 ―ともに在りて―』の小泉堯史監督が、荒川区の吉村昭記念文化館で映画公開を記念して、株式会社キネマ旬報社の前野裕一氏とのトークイベントを開催した。
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「少しでも美しいものに寄り添いたい」黒澤明監督への思いも告白
黒澤明監督の愛弟子として知られる小泉監督。まず「雪の花」を映画化するにあたっての思いを聞かれると、「医者としての強い思い。それに全身全霊をかけて取り組んでいく(主人公・笠原良策の)高い志に憧れを抱きました」と語った。
さらに「笠原良策(松坂桃李)以外にも、大武了玄(吉岡秀隆)、日野鼎哉(役所広司)、この3人のトライアングルを基軸にすれば映画として成り立つのではないか」と、映画化をイメージして原作を読んでいたそうだ。
ただ、「小説は史実を大事にして書かれていますが、映画の場合は歴史や史実だけを捉えていると映画として成り立ちにくい」と小説を映画化する難しさを吐露。
加えて「映画の場合は感情論で、映画は音楽に近い。起承転結、感情を描かないことには飽きてしまうし、感情に頼るということが大きなウエイトになってくる」と、小説を映画に落とし込むうえで気を付けているポイントを明かした。
また、今回は良策の妻である千穂(芳根京子)や、原作にはいない人物であるはつ(三木理紗子)を登場させることで、映画的要素を大きくしたという。
はつは自分の家族が疱瘡の犠牲者となり、さらに自身も疱瘡にかかったことから迫害を受ける。彼女を描くうえで役に立ったのが、ハンセン病施設で医療活動に従事した精神科医の神谷美恵子さん(1914~1979年)の著書「生きがいについて」だったという。
「その本を読むと、その中に生きる人物が生きた言葉が書いてある。そういうものを散りばめながら映画を作っていきました」と述べた。
続いて本作のキャスティングについて聞かれると、「黒澤(明)さんが言っていたのですが、映画で大事なことは脚本とキャスティング。キャスティングについては自信があります」と胸を張った。
「(主人公の笠原良策を演じた)松坂さんは非常に素直で、この人物だったら主人公をきちんとつかんでくれると思った」と語り、良策の妻・千穂を演じた芳根については「俳優さんはそのセリフをどう捉えるかが大事なのですが、聞いている表情も非常に大事。芳根さんはその聞く表情がとてもよかったのでオファーをしました」と、抜擢の理由を明かす。
さらに日野役の役所については、「お豆腐の“にがり”みたいなもので、この人がいてくれたことで映画がキュッと締まる。なかなか日本の俳優さんで役所さんみたいな人はいないので、ご一緒できただけでよかった」と尊敬のまなざしを見せた。
本作の撮影は2023年10~12月の寒さが厳しくなる時期にかけて行われた。撮影を振り返って大変だったことを聞かれた監督は、「ないですね」ときっぱり。
劇中で印象的だった雪山撮影について聞かれると、「スタッフがあらゆることを想定して準備してくれたので、僕が気を遣うことはなかったです」と黒澤組からの信頼するスタッフに感謝の気持ちを伝えた。
そのなかのひとり、先月の1月に亡くなった撮影カメラマンの上田正治とは影武者(80年)の撮影から一緒だったというが、一度も喧嘩や言い合いはしたことがなかったという。監督は「カメラマンは監督以上に監督の身になるポジション。そこに素直に来てくれて、僕の目以上にビジョンを広げてくれる。頼りがいがある女房です」と思い出を語った。
また、原作にはない良策(松坂)の殺陣シーンについて聞かれると「僕自身が水戸出身で、文武両道ではなく“文武不岐“という言い方が普及していて、武士が持っている精神性を医者が持っていてもいいだろうという思いがあったんです」と、監督の子どもの頃からの思いも含まれていたという。
殺陣シーンを見た人からは「(黒澤監督の)『赤ひげ』(65年)みたい」という声もあがったというが、それに対し監督は、「うれしいですね、真似というものも良いもので、学ぶということは“真似”することだと思います」と喜んだ。
トーク後半、現在吉村昭記念文化館で展示されてある展示品についても触れられ、本作でも使用された薬を潰す道具(薬研)も今回展示されているという。
実はこの薬研、黒澤明監督が実際に自宅で使っていたもの。「僕にとっては黒澤さんが傍にいてくれているようでホッとする」と監督。
公開後、SNS上では「美しかった」という声が上がっている本作。「黒澤さんも『美しい映画が作りたい』と言っていました。僕も少しでも美しいものに寄り添いたいと思っている」と小泉監督は話す。さらに、「スタッフの両親や子ども、孫と一緒に見られない映画は作らないという気持ちでいます」と自身の映画作りへの思いを語った。
最後に次の作品について聞かれた監督は、「水戸の出身ということもあり天狗党(尊王攘夷を目的とした集団)に非常に興味があるんです。でも残虐さが激しいので、それなりのものにできるかが難しい」と次の作品に向けて頭を悩ませる場面も。だが「いろいろ映画の案は浮かぶけど、どのようにして映画に持っていけるか、と考えることが楽しい」と、意気軒昂に語った。
特集展示では前出の薬研の他、吉村氏の自筆原稿「めっちゃ医者 伝」や、種痘に関する自筆メモ、「雪の花」に関する自筆メモの他、小泉堯史監督より寄贈された映画『雪の花 ―ともに在りて―』台本、『蜩ノ記』(14年)『峠―最後のサムライ―』(22年)の劇場版パンフレット、撮影で使用された小道具や衣裳、スチール、衣裳デザイン画なども展示されている。
『雪の花 ―ともに在りて―』は現在公開中。
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