「日本ではまだ死はタブー扱いされている」安楽死を選んだ女性を追った理由とは? ドキュメンタリー監督が思いを告白
#TBS DOCS#TBSドキュメンタリー映画祭#ドキュメンタリー#安楽死#小川彩佳
先週からスタートした「TBSドキュメンタリー映画祭2025」で上映されている『彼女が選んだ安楽死〜たった独りで生きた誇りとともに〜』。3月上旬にトーク付特別試写会が開かれ、西村匡史監督と『news23』メインキャスターである小川彩佳が登壇、映画について語り合った。
・土井善晴「日常の料理にレシピなどいりません。料理なんて習わなくていい」多忙から解放され発想も自由に、心境の変化を明かす
・【動画】彼女はなぜ安楽死を選んだのか?/映画『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生き抜いた誇りとともに~』予告編【TBSドキュメンタリー 映画祭2025】
ひとりの女性の人生を通して伝える、生きるということ・死ぬということ
・『彼女が選んだ安楽死〜たった独りで生きた誇りとともに〜』トーク付特別試写会の写真をもっと見る
TBSテレビやTBS系列各局の記者やディレクターが、歴史的事件、現在進行形の出来事、そして市井の人々の日常を追い続け、記録し、情熱を込めて世に送り出してきたドキュメンタリーブランド「TBS DOCS」が開催する「TBSドキュメンタリー映画祭」。5回目を迎える今年も、2025年も3月14日より東京・名古屋・大阪・京都・福岡・札幌の全国6都市で順次開催される。
テレビやSNSでは伝えきれない「事実」や「声なき心の声」に迫る本映画祭において、注目されている作品のひとつに『彼女が選んだ安楽死~たった独りで生きた誇りとともに~』がある。
本作は2022年、安楽死するためにスイスに渡った迎田良子さん(64)に焦点を当てたドキュメンタリーだ。西村匡史監督は『報道特集』などで迎田さんを取材、同様のテーマ・内容を記事にした『「安楽死」を考える スイスで最期を迎えた日本人 生きる道を選んだ難病患者』は「LINE NEWS」の<LINE ジャーナリズム賞>年間大賞に選ばれた。
西村監督は「2021年1月に1通のメールから始まったこの映画が、生きること・死ぬことの議論のきっかけとなればと思います。そして最後まで逃げることなく取材に応じていただき、映画という形にすることで、彼女(迎田良子さん)の想いをひとつ届けることができたと思うので、少しホッとしている部分もあり、これからいろんな人に届けば良いなと思います」と語った。
続いて映画の感想を聞かれた小川は、「西田監督とは今まで番組で一緒に仕事をする機会もあり、想いを込めて熱心に向き合う姿を見てきていたので、今回映画という形になったことが、自分も感慨深いです」と語った。
また「安楽死というテーマだとどうしても構えてしまう部分があったが、作中で描かれていたのはひとりの女性の生きざまで、自分自身の生き方を見つめ直すきっかけになった」とも述べた。
この映画祭のスペシャルサポーターを務める小川は、「日々どうしても、取材したにもかかわらずテレビの報道の中には入りきらずに、残念ながらそぎ落としていた部分を知っているからこそ、それをみなさんにお見せできる機会があるというのは、すてきなことです」と語り、本映画祭の意義をアピールした。
その後、西村監督が今まで22年間の記者人生において、常に「いのち」をテーマに置いて取材を続けてきたこと、小川もまた『news23』のメインキャスターとして日々「いのち」に関わる情報に触れていることを踏まえ、「いのち」についての話題となった。
小川からの「どんな思いで迎田さんに向き合ったのか」という質問に、監督は「私はちょうどロンドンに駐在していたので、日本に住む迎田さんとは何度もZOOMで話し合って関係を築いていきました。最初は安楽死のことばかりを話していましたが、徐々に彼女の生きてきた人生や楽しい思い出を話してくれるようになったことで、私にも情が生まれてしまいました」と答えた。
取材を続けながらも、なんとか生き続けることができないものか、という気持ちも芽生える。それは記者としての葛藤でもあった。「これまでは『生きる方向』に背中を押すものを撮ってきたので、安楽死はその逆になるので葛藤することも悩むことも多かった」と率直な気持ちを吐露した。
また西村監督は、安楽死は社会にとって脅威だとも感じているという。「たとえば、本当はまだ生きたいと思っている人が、周囲に迷惑をかけたくないという理由で安楽死を選んでしまうことがあったり、なかには周囲が自分の死を望んでいると思ってしまう人が出てきてしまう可能性もある。安楽死は常にそういうリスクと背中合わせで、それを紹介することは最後の最後まで葛藤は拭えない。それでも、誰にでも訪れる死については議論すべきだ」と力強く話した。
来場者からの「迎田さんの決断をどう思ったか」という質問に、小川は「作品を見ているうちに彼女の魅力にすごく引き込まれ、自身も迎田さんと言葉を交わしてみたかったと感じた」と語った。
同時に「それぞれの人生のなかで編み出されたものが人生を貫いていくことも認識し、周りの人間がとやかく口を出せるものではないし、そういう領域が彼女には確実にあった」という感情が浮かんだといい、「そういった領域を、自分も人生のなかで育てていきたい。それは目の前にある1日や家族・自分自身を大切にすることだと思う」と生き方を考える機会になったそうだ。
また、「海外に比べ、日本ではあまり安楽死の議論自体が起きにくい。どういったことがあれば日本でも議論が活発化するのか」という質問に対し、監督は「イギリスでは小学校の授業でも、安楽死をテーマにディスカッションをするのが普通なこと。それに対して、日本ではまだ死はタブー扱いされている。海外も政治から率先して動いているというよりも、市民の声が政治を動かしているのが現状。日本ももっと、誰もが関係する『いのち』に対しての議論が活発になり、少しでも市民が自分から考えて動いていくことが必要で、そうすれば自然と政治が動いてくるのではないか」と自身の見解を述べた。
小川は、「議論をするためには、時間と情報が必要なので、決して結論を急ぐべきではなないですが、(議論をする)そのために教育やメディアがさまざまな角度から情報を伝えていく必要性を感じています」とコメント。「映画祭の作品は多岐にわたり、老若男女さまざまな方にフォーカスが当てられており、ともすれば自分から遠い違う世界を生きる人というように感じることもあるが、作品を見ていると、どこか自分と映し鏡になっており、そこに境目がなく自分と地続きになっている世界の方たちなんだな、とわかってくる瞬間があります。その瞬間を、映画祭を通してたくさん経験していただけたらと思います」と映画祭全体について述べた。
西村監督は「今回の映画を通して、安楽死だけでなくひとつの『いのち』について考えるきっかけになればいいと思います。ひとりでも多くの方にそれが届けば、迎田さん含む今まで取材させていただいた方への恩返しになると思います」と締めくくった。
「TBSドキュメンタリー映画祭2025」は全国順次開催中。
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
ドキュメンタリー『私の親愛なるフーバオ』の一般試写会に5組10名様をご招待!
応募締め切り: 2025.03.23 -
【ポン・ジュノ監督登壇】『ミッキー17』ジャパンプレミアに5組10名様をご招待!
応募終了: 2025.03.14