安田淳一監督がほぼ全財産をつぎ込んで完成させたインディーズ映画『侍タイムスリッパー』。昨年8月に公開される谷口コミで面白さが広がり、10億円超の興行収入を叩き出す大ヒットを記録。今もなおロングラン上映を続けており、先月行われた第48回日本アカデミー賞では優秀作品賞ほか7部門で受賞を果たすなど、快進撃を続けている。4月15日には日本外国特派員協会で記者会見が行われ、安田監督と主演の山口馬木也が登壇した。
・成功のスピードに気持ちが追いつかない 山口馬木也インタビュー
・製作費の不足はカードのキャッシングで 安田淳一監督インタビュー
安田淳一監督は米作りへの思い語り、思わず涙
公開から8ヵ月間の怒濤の日々について聞かれるも「疲れはありません。驚く日々がずっと続いてるか感じで、毎日夢を見てるようです。とても幸せな気持ちでおります」と安田監督。山口は「僕も監督と同様、疲れはないです。ただ、もうずっと夢の中にいるような感じがしてます。ほんとに大勢の方とこうやって繋がることができて、毎日、夢のように思ってます」と語った。
映画作りと農家の二足のわらじを履く安田監督だが、両立について、さらに農作業中にアイデアが浮かんだりするかと聞かれると「僕は米を作っているんですけれど、今、日本のお米はすごく状況が厳しくて、1袋の米を作ると1000円近い赤字になるので、両立はできないんです。映画についてはたくさんの自費を使って作りましたので、この映画がヒットしなかったら、農業もやめないといけないほどのピンチでした。けれど、おかげさまでなんとか映画もヒットし、これから数年は、安心して米を作っていけると思っています。ただ(一息つけたのは)僕個人のことであって、日本の農家全体でいうと、すごく重い問題がずっと横たわったままです」と吐露。
・[動画]『侍タイムスリッパー』山口馬木也、安田淳一監督と一緒に日本外国特派員協会で記者会見
安田監督には、米作りをテーマにした『ごはん』という作品もあるが「こちらは、大規模農家を継ぐことになった女性の戦いを描いているので、ぜひご覧ください」とアピールし、映画作りと米作りの秘訣については「作るときに思うのは、丁寧に作るということです。丁寧に真心を込めてというとちょっと抽象的になると思うんですけども、決しての手を抜かずですね。じっくりといいものを作っていくというところは似てるような気がします」と共通点について語った。
侍が現代にタイムスリップする物語ということで、時代劇への思いについて聞かれると、安田監督は、「時代劇という主題を選んだ理由は、やっぱりインディーズ映画で取り組むにはかなりのハードルが高い題材だからです。今まで映画を作ってきたその経験から言うと、簡単に作った映画ではお客さんは喜んでくれない。ハードルが高いものをやり切った方がお客さんの喜びにつながるというところで、あえて時代劇を選択しました。そしてもう1つ、やはり時代劇に対する思いです。僕たちの世代が共通に持ってる懐かしさ———子どもの頃に小学校から帰ってテレビをつけると、夕方にはずっと再放送の時代劇があって、毎晩のように新作の時代劇が流れてました。時代劇を通じていつも見ていたのは、江戸時代の庶民の生活の中で、お金とかそういうことではなく、困ってる人を助ける、助け合うという、そういった物語がずっと描かれ続けていて、そこに日本人の温かさを感じました。最近、時代劇がなくなりましたので、僕はこの作品を作るときに、“ソードアクション”としてのチャンバラの面白さはもちろんですが、善人が助け合うという世界をどうしても描いてみたかったんです」と力説。
山口は「元々、俳優として何をどうすべきかっていうことがわからなかった時に時代劇というものに出会い、所作であったり立ち回りであったりということを覚えれば俳優にちょっとでも近づけるっていうのがありました。ですので、僕の中で時代劇っていうのは恩人のような、そういう存在なんです。僕は京都の撮影所でそういったことを学んだんですけど、この映画ってそういう方たちの話です。今、時代劇は風前の灯火ということなので、何か恩返しのようなことができればいいなという思いで、この映画に参加していました」と語った。
また、名優にして昭和の名監督でもある伊丹十三の作品ビデオが劇中の小道具として登場することについて聞かれた安田監督は「インディーズ映画なので、美術も自分たちで揃えなければなりませんでしたので、ポスターなんかもヤフオクで買ったりしました。で、時代劇が流れるテレビの横に何かしら置こうとしたときに、自分で持っているビデオを持って行き、それが伊丹監督の作品だったんです。ですのでよく“伊丹十三リスペクト”と言われていて(笑)、実際にリスペクトしています。伊丹監督は自分たちの知らない世界を見せてくれる監督で、僕自身も、この映画で“斬られ役”や時代劇が作られる過程を描いているので、それは遠からず伊丹十三監督の描いた世界観と近いものがあると思います」と説明してから、「すごく伊丹十三監督はリスペクトしております」と付け加えた。
米作りについては再度の質問も。今、日本中で起きている米不足、米の価格高騰について聞かれた安田監督は「今、お米の値段が高いと言われてますが、実際には30年前のお米の値段に戻っただけなんです。かいつまんで申しますと、国の政策によって日本の米作り農家はずっと振り回されてきました。そして政策に振り回されてきた結果、今のこういう状況がある。農家の自助努力ではもうなんともしがたい状況にあるので、やはりこれは何かしら大転換が国政において行われないと、日本の農家はやっていけないと思います。『ごはん』という映画でも描いたものですが、今、日本の米農家の年収は“1万円”と言われてるんですよね。時給で言うと1円から100円の間です。僕は1.5ヘクタールぐらいの田んぼでお米を作っていますが、年間、数十万円の赤字になっております。これが日本の米作り農家の状況です。僕が『ごはん』を作った時、あの映画は解決策を描いていないと批判されたこともあるのですが、実際にあの映画では、お父さんが頑張ってたから私たちも思いを受け継いで頑張るということで物語は終わるんです。僕自身も、父や祖父が一所懸命頑張ってきたから米作りを残したい」と語り、思わず涙ぐき、隣の山口がティッシュを差し出すシーンも。さらに安田監督は、「自分たちが作らないと日本のお米を守れないという状況の中で、今、闘っている状況です。この映画がヒットして米作りを続けられるというのは、個人的な百姓一揆が成功したような気がしています。百姓の倅が侍をネタにして、まんまと自分の農地を守ったような気持ちも少しあります」と続けた。
続いて、出たのが“涙”にまつわる質問。主人公の高坂新左衛門は侍ながらよく涙ぐむ。それについて外国人記者から「とても情にもろくてよく泣くので、大きな赤ちゃんのようでしたね」と言われた山口は「僕もすごく“感動しい”です。悲しいことで泣くことはあまりないのですが、結構感動で泣くことは多いような気がします。新左衛門に近づいたのか、僕に新左衛門が近づいたのか、ちょっと僕もわからないですけど、撮影中は同化してるような気がしてました。僕は泣き虫なんだと思います」と微笑んだ。
『侍タイムスリッパー』(C)2024 未来映画社
主人公が会津藩士であることから、戊辰戦争について聞かれた安田監督。
「この脚本を書いた時は、まだロシアによるウクライナ侵攻もなく、ガザでのああいう事態も起こっていませんでした。脚本を書いた時は『(戦争について)いろいろあったけれど、これだけ年月が経っているんだからお互いもう水に流そう』というような終わり方がいいなと思ってました。ただ、なかなか現状では……もう許せる範囲を超えてると思うので、残念だなという風に思ってます」
一方、見事に会津藩士を演じた山口には「演じる上でインスピレーションを得た人物などはいましたか?」という質問が。
「いろんな方に聞かれるんですけど、全くなくて。読んですぐ、このお侍さんはこういう人だなっていうのが思い浮かんたので、それをそのまま監督に相談したら、『それが僕が思う小坂新三役です』という風に言われたので、誰かをモデルにしたとかは全くなく、初見でなんかああいう風になりました。また、皆さんに聞かれるのは、方言、会津の言葉についてです。これも色々と監督とご相談させてもらって、僕はこういう風な温度ある喋り方で行きたいんですけどと話し、監督と相談しながら決めました。ですので、あまり誰かモデルにしたとかいうことはなかったです」と答えた山口だが、話し終えてから、「もうひとつ付け加えていいですか」と言い添えてから、「撮影が始まってからは、福本清三さんという殺陣師の方から色々とヒントをいただきました」と話した。
さらに、キャスティングの素晴らしさとヒットの秘訣について聞かれた安田監督は、小さく「I have a sense of casting」と英語で答えてから、「私には『カメラを止めるな!』というお手本がありました。『ごはん』という映画を作った時に3年ぐらいロングランして1万2000人ぐらいの方が見てくださって、インディーズ映画ではこのぐらいがよく頑張ったかなと思っていたんですけども、数年前に『カメ止め』が大ヒットするのを見て、インディーズ映画もここまで大きくなれるんだということを知り、とても感動しました。その時に、自分の過去の作品にはここまでお客さんを楽しませる力が足りなかったということを素直に反省して、作品そのものを研究し、どうやってプロモーションしていったかを研究しました。秘訣ですが、インディーズ映画を撮る時に情熱があるのはもうこれ当たり前のことなんで、論理的思考とそれから戦略を立ててものを進めていくことにしました。そして、そういった方法論で『カメ止め』のヒットの再現性を証明しただけです。当時『カメラを止めるな!』のヒットは一回きりの奇跡という人が多かったんですけれど、僕は1回できたことは再現できるんじゃないかっていうところから、この映画に取り組み始めました」
同じくヒットの秘訣について聞かれた山口は「正直、まったく分からなくて」と苦笑い。「わからないので、僕はお客さんによく聞くんです。なんでこんなに映画館に足を運んでくださるんですか、と。多くの方がおっしゃるのは、なんかキャラクターに会いに行きたくなるんですって言ってくださるんです。それがどういうことかは、僕にはちょっとわからないですけど。監督はヒットの再現ということを狙ったんでしょうけど、僕はなんか映画館に来て、なんか楽しく笑って泣いて、みたいなことが起きればいいなと思っています。最初に思ってたのは、ちっちゃい宝物をコツコツ拾うのが楽しいような映画になればいいなっていうことを思っていただけなんで」と話していた。
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