今最も注目の女性監督と女優たちが紡ぐ物語、コロナ影響で延期の話題作がついに公開

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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、3月公開が延期になっていた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』が、ようやく公開される。

ルイーザ・メイ・オルコットの原作「若草物語」は1868年の出版以来、長年に渡って読みつがれ、日本を含む世界各国に愛読者がいる。映画やドラマ、日本のアニメなどにも脚色されてきた19世紀アメリカの4姉妹の物語が、今最も注目される女性監督と女優たちによって現代にも響く群像劇として登場した。

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オルコットの自伝的要素も強い物語の中心となるのは、次女で小説家志望のジョー。演じるのは本作のグレタ・ガーウィグ監督の前作『レディ・バード』でも主演を務めたシアーシャ・ローナン。女性の幸せとは結婚して家庭に入ることとされていた時代に、自分の夢を実現させるために結婚はしないと決意したジョーの心の強さと同時に、大切な人たちへの愛情深さや不安に揺れる心模様を繊細に演じている。

ジョーが出版社に原稿を売り込みに行く大人に成長した現在と、父が北軍として南北戦争に出征中の少女時代を行き来する構成で、ニューイングランドの中流家庭、マーチ家の女性たちの慎ましく、愛情あふれる生き方に当時の社会と女性の関わりを反映しつつ、その先を目指そうとする姿に現代的な視点が入る。

1世紀半以上も前の昔話だけではない普遍性をもたらしたガーウィグによる脚色が見事だ。受賞は叶わなかったが、第92回アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、作品賞、主演女優賞(ローナン)、助演女優賞(フローレンス・ピュー)、作曲賞でも候補となり、衣装デザイン賞を受賞している。

数年前ならきっとジョーを演じていたであろうエマ・ワトソンが、当時の女性の大半がそうであったように良き妻、良き母になりたいと願う長女メグを演じる。病弱で物静かだが、強さを内に秘めた三女ベス(エリザベス・スカンレン)、我が強くジョーと喧嘩してばかりのおませな四女エイミー(フローレンス・ピュー)……と姉妹の性格は様々で、どの生き方もこの映画では否定されない。それはローラ・ダーンが演じる姉妹の母の立場でもある。

原作でおなじみのエピソードの数々も押さえてあるが、新鮮なのは末っ子のエイミーの描き方だ。姉たちを見て育ち、画家になる夢を抱きながらも現実的に生きようとする。演じたピューは「私たちはみんなジョーよりエイミーに近いかもしれない」と語っているが、わがままだったり嫉妬深い面を持ちつつ、自分をよく知り、妥協ともまた違う形で自分の夢と折り合いをつけていくエイミーに共感を抱く人は少なくないはずだ。

『レディ・バード』にも出演したティモシー・シャラメがマーチ家の隣人で、裕福な家庭のローリーを演じる。姉妹と友だちになり、やがてジョーに恋心を抱く青年だ。

姉妹に世間の価値観の厳しさを教えるおばをメリル・ストリープが演じる。成長したジョーがニューヨークで作家修行中に出会うベア教授(ルイ・ガレル)も含め、理解者に囲まれたジョーの環境はの実際19世紀に生きていた女性たちよりは恵まれているのかもしれない。

だが、なりたい自分があったとしても社会がそれを簡単には許さなかった時代だからこそ、ジョーは大好きな相手から情熱的なプロポーズをされても拒む。そして、自立しようと闘いながらも、ふと見せる迷いや弱さはリアルで、エイミーと同様に人間らしさに満ちている。

映画はジョーと原作者オルコットをはっきりと重ね合わせ、作家としてのジョーと編集者の攻防とその顛末は、オルコットにとっての「なりたかった自分」をガーウィグが形にしてみせたように思える。

邦題は「私の物語」と謳うが、この “私”を登場人物の誰に置き換えるか。姉妹に限らず、彼女たちの母親でも、裕福なおばでも、男性キャラクターでもいい。そのたびに、世界は違った風景に見えるはずだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は6月12日より公開中。

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