【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第12回】
梅雨真っ只中のこの季節。
こんな日はおとなしく家の中で過ごすのが一番。
友人からもらった宝塚のDVDでも見よう。
大の宝塚ファンの友人が宝塚未体験のぼくのために、初心者でも絶対に宝塚が好きになる公演を集めた選りすぐりをプレゼントしてくれた。
その公演とは、友人が大ファンの紅ゆずるさん出演の星組公演『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレットピンパーネル)』。
まず舞台芸術が素晴らしく、華やかで、役者の方々が美しく、その歌声は堂々として、お客さんの一糸乱れぬ拍手に感動した。
フランス革命の激動の時代が舞台。イギリス貴族とフランス人の美女が結婚して、イギリスへ渡り、その御披露目パーティーの最中になんだか不穏な空気が流れはじめ、これから面白くなるぞ!というところで画面がフリーズ。
停止して何度再生しても同じところでフリーズ。
ディスクを何度出し入れしても同じところでフリーズ。
開始15分でこんなに心を掴まれていたのにやりきれない。
新しい世界が開かれかけてたのに、無情にも扉は閉められた。
見られなくなるとわかると無性に見たくなるもので、雨のなかDVDデッキを買い直すために新宿へ。
家電量販店へ向かう途中、新宿ピカデリーの前を通ると、ウディ・アレンの新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』がやっていることを知る。
これは2018年の映画で、日本では昨年に上映されることになっていたのだが、ウディに色々あって2020年7月から上映されたもの。
わーい! やったー! やったー!
さっそくチケットを買って、3ヵ月ぶりに映画館へ足を踏み入れた。
席が間引かれていて、これはこれで快適。
ただ、映画館の苦悩を思うと喜んでいられない。
映画館で映画を楽しめることに感謝しながら、席に座って静かに気持ちを整えた。
内容は良くも悪くもいつものウディ節。
ファンには堪らないいつもの感じ。
40年代の洒落たジャズからはじまるいつもの感じ。
自意識過剰でめんどくさい男と奔放な女が、自由に恋を楽しんでる。
軽快なテンポと数珠つなぎの脚本にはいつもため息がでる。
世界を救う話でも、CGを駆使したアクションでも、スペクタクルでもなければ、色っぽいシーンもない。
なんてことない話なのに、こんなにドキドキさせてくれるなんて。
映画はこうでなくっちゃ!
素晴らしい映画はたくさんあるけれど、繰り返し見たくなるような軽い映画は多くない。
軽くて面白いというのは誰でも作れるものではない。
選ばれた才能だけだ。
長生きしてよね、ウディ!
雨に濡れながら流れるようなステップで鼻唄混じりに帰宅。
宝塚はまた今度。
こんなふうに、未体験の楽しみがあるって幸せだ。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
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