脅かされる香港の民主主義、若者たちが主役の香港デモを知るための3本

#ドキュメンタリー

Netflix配信『ジョシュア: 大国に抗った少年』
Netflix配信『ジョシュア: 大国に抗った少年』

中国の全国人民代表大会常務委員会は6月30日に、国家の安全保障を脅かす反政府的な活動を取り締まる「香港国家安全維持法」を可決・施行した。これにより、これまで香港が「一国二制度」の名の下に死守してきた「香港の民主主義」が骨抜きにされるのではないかと、多くの市民が懸念を示しており、実際に「香港国家安全維持法」で逮捕される者も出始めている。

イギリスの植民地だった香港が1997年に、中国に返還されてからおよそ23年。50年間は香港の自治を認めると言っていたはずの中国政府だが、少しずつ香港を飲み込もうとしている。そんな香港市民が抱く不安とは何なのか。映画を通じて考えてみたい。

香港の未来を描き出したオムニバス作品『十年』を出発点にした是枝裕和監督による日本版

香港市民がなぜここまで激しく中国政府に反発するのか。その背景については、Netflixで配信中のドキュメンタリー『ジョシュア: 大国に抗った少年』が分かりやすい。2011年に中国政府が、学生の愛国心を育む「国民教育」を導入しようとしていたことに、ごく普通の14歳の少年だったジョシュア・ウォンが反発。民主化団体「学民思潮」のリーダーとなり、香港の自治権を求める抗議活動を行っていく。そして彼の熱い主張に賛同した若者たちが、香港の街で抗議運動を繰り広げる。やがて彼は、2014年の「雨傘運動」と呼ばれる反政府デモでも大きな役割を果たしていくが……。

「雨傘運動」の名前の由来は、警察がデモ隊に撃ち込む催涙弾を防ぐために、市民が雨傘を持参したことからくる。その様子もこのドキュメンタリーには克明に記録されており、その様子は圧巻だ。そしてその「雨傘運動」を別の角度から描き出したドキュメンタリー映画が『乱世備忘 僕らの雨傘運動』だ。昨年に香港で「逃亡犯条例改正案」に対する反対運動が起こった際、日本のミニシアターで緊急上映されていたことも記憶に新しい。『ジョシュア〜』が運動家たちの動きを追ったドキュメンタリーであるならば、こちらは抗議デモに参加する普通の若者の姿を描いたドキュメンタリーとなる。

同じ香港人であるはずの警官たちから催涙弾を浴びせられる若者たち。そこに集まるのは本当に普通の若者たちだ。香港の街が占拠され、路上にはテント村ができ、そこで寝泊まりをする若者たち。親の反対を押し切って、授業の後にデモにやってきた中学生もいる。かわいい女の子が気になってナンパをしようとする若者もいる。時には討議がまとまらず言い争いになることもあるが、「これが民主主義」だと皆で笑いあう。ニュースでは見ることのない「普通の若者たちの姿」がここには詰まっている。

そして最後は5人の若手監督が、映画が制作された2015年から10年後の香港の未来を想像し、描き出したオムニバス映画『十年』だ。香港の母語である広東語しか話せないタクシー運転手を閉め出す『方言』や、雨傘運動後の喪失と再生をドキュメンタリータッチで表現した『焼身自殺者』、香港最後の養鶏所で産み落とされた卵を売る商店主を描く『地元産の卵』など、5本の短編作品の中には香港人が漠然と抱く不安感がある。本作のプロデューサーは「10年後はこうなるというつもりで作った映画なのに、現実は3年後に来てしまっている」と漏らしたという。

なお、同作は中国政府による映画館や映画祭での上映禁止などの妨害にあいながらも、インディーズ映画ながら異例のロングランヒットを記録し、香港で権威のある映画賞「香港電影金像獎」の最優秀映画賞にも選出。日本版も制作された。(文:壬生智裕/映画ライター)