塚本晋也『野火』と蒼井優の『斬』ダブル上映。終戦から75年の今年はリモートトークも

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塚本晋也 戦争 映画
塚本晋也 戦争 映画
(C)2014 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
塚本晋也 監督 野火 怪獣シアター

戦後75年となる今年、各地で終戦にまつわるイベントが感染症予防の見地から縮小されている。ただ、表現手段である映画に関して言えば、この閉塞的な状況がむしろ反動なって人の心に響くのではないか。

いま見るべき映画として紹介したいのは、戦後70年となる2015年に55歳となった塚本晋也が「今しかない」との使命感から製作した戦争映画『野火 Fires on the Plain』。自主宣伝配給体制で監督自ら全国行脚した上映当初の意気込みは衰えることなく、全国で再上映が重ねられた。戦争を知らない世代を含めのべ10万人近くがそのおそろしさを”体感”した。「今はすでに戦前かも知れない」と大林宣彦監督からバトンを受けたこともあり、今年はますますその意を強くしているに違いない。

塚本晋也監督ヴェネチア国際映画祭で審査員に

この映画は、大岡昇平の小説「野火」を塚本監督の視点で映画化したもの。人間ドラマとして描き多分に文芸作品の香りがする市川崑監督の「野火」とは異なる。いかにも悪そうな敵兵が現れたり、百戦錬磨のヒーローが現れることもない。言ってみれば、塚本演じる田村一等兵の目線で敗残兵としてただただ深い深い森の中を彷徨い続けるだけの作品だ。

だが、劇場の大画面&爆音で“体感”してしまうと、もし自分だったらというのを想像するのは難しいにせよ、ふだんは穏やかな自分のおじいちゃん、おばあちゃんはこんな中を生きてきて、被害者または加害者だったかもしれない口にできない過去を心に抱えているのかもしれないなどと想像した途端、その計り知れない奥深い恐怖を感じることができるだろう。

「被害者も加害者だったのだ」「そうするしかなくなる」。塚本監督は淡々と森の散策を描く中で、究極の選択を迫られ続ける人間の行動を浮き彫りにする。

だがはたしてこれは、戦争という特殊な環境だったからなのか? いやそうではなく、初期の作品からずっと「都市と人間」をテーマに人間の暴力性について問うてきた塚本監督の視点は、あらゆる側面で「戦前」といえるこの困難な現代における人間の生き様そのものを問うという共通性をこの作品でも貫いている。「自分がそんな目に遭うとは思わなかった」「それはひとえにオマエが悪いんだ」。昨日の隣人は今日の他人。舞台が都市でも大自然でも、あの人はミスをした、運が悪かったと整理して、また何事もなかったかのように新たな日常が続いていく……。これは、続く時代劇『斬、』でも等しくテーマとなっている。

DTS-HD Master Audio 5.1ch音声が恐怖の重低音のブルーレイ(松竹)で堪能するも良し、デジタル配信などさまざまな手段でアクセスできる本作。今年は感染症予防の観点から、4月に予定されていた神奈川近代文学館での特別展「大岡昇平の世界展」記念上映も11月6日、7日に延期となるなど、劇場での上映も危ぶまれたが、渋谷ユーロスペースほかで再上映が行われ、塚本さんは全国各地の劇場へリモートトークで参加し、戦争について語り合う活動を続けている。塚本晋也さんや野火の公式サイト、SNSで確認して欲しいが、直近では鹿児島市ガーデンズシネマの8月14日/11:10の回があり、通常料金ながら定員19名で予約が必要。そのほか、大阪シアターセブンで8月22日/12:00回、名古屋シネマスコーレでの8月28日/18:40回、新潟高田世界館で8月30日/14:00回でもリモートトークが予定されているので、近くに巡ってきたときは参加して語り合ってみてはどうだろう。(文:fy7d)