【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第14回】
『アルプススタンドのはしの方』という映画を鑑賞した。
これが青春映画の大傑作でした。
金字塔といってもいいかもしれない。
舞台は甲子園の1回戦。
この映画は野球のシーンはひとつもでてこない。
グラウンドのシーンがひとつもない。
高校野球、夏の甲子園、感動できる要素はたくさんあるのにひとつもでてこない。
あくまでアルプススタンド中心。
挑戦的で意欲的で画期的なアイデア。
けれど変化球映画ではなく、ど真ん中ストレートな後味。
青春ど真ん中の映画って作るのすんごい大変だと思うんです。
わかる人にだけわかればいいみたいなものの何倍も難しいはず。
なんといっても原作が素晴しい。
パンフレットに書いてあったんだけど、これは元々高校の演劇の先生が書いたものなんだそう。
映画にも演劇部が登場してリンクさせてるんだけど、全国大会までこの作品で勝ち上がったそう。
そりゃそうだ。
こんなに圧倒的な面白さを、地方大会ではじめてぶつけたときの観客の驚きは想像に難くない。
演劇だから、野球野球の“プレー”を見せることはできないから、舞台転換が自由にできないという縛りをうまく使ったわけです。
他校の先生たちがこの作品を認めて、必ず全国大会に出場させようと応援してくれたという話がいいなぁ。
正直、開始の10分くらいは、みんな演技が下手だなぁと思った。
でもそれは、より高校生らしくみえるし、途中から加速度的に面白くなるにつれ、そんなことを考えなくなったし、むしろ上手に演技されるなぁと思った。
映画のなかでも生徒たちが成長していくのを表現したのかも。
熱血教師なんかヒドイもんだとはじめは思うんだけど、最後はこの先生に泣かされる。
素敵な役者さんだと思いました。
「人生は送りバントだ」
「振らなきゃダメなんだ。見送り三振はダメなんだ」
暑苦しい台詞を吐くんだけど、大人になると改めてそんなこと口にする人はいないし、大声で叫べる人はいない。
先生にも過去があり、現状に満足してない境遇だとわかると、自分にも言い聞かせてるんだなとわかる演出になっていて緻密だなぁと感激した。
人生ってのはやっぱり、努力をし続けるってことでしか前に進めない。
そのことを突きつけてくる。
わかっちゃいるけどできない。
それを映画館で観ていた大人たちはみんなわかってる。
わかってるけど変わりたいんだ。
でもやっぱり変われない。
継続した努力なんてできないから。
至るところから、すすり泣く声が聞こえてきたけど、それは色んな涙なんだと思う。
自分たちが若い頃できなかった努力を、青春を、もう一度体験しているようでもある。
原作にはないというラストシーンもよかった。
やっぱり映画は夢を与えてくれるもののほうがいいから、最後あの子が報われてよかった。
そんなことは現実にはないとは思うけど、そんなハッピーエンドが映画のなかにはひとつくらいあってもいいじゃないかと思わされた。
終わってパンフレットを買い求める長蛇の列があった。
みんな同じ気持ちなんだと思う。
人生を「しょうがない」と諦めるにはまだ早すぎる。
声を出して動くこと、声を出して誰かの背中を押してあげること、できることはまだたくさんある。
そんなことを素直に思える王道ど真ん中の青春映画でした。
これはみんなに観てほしい。
こんなにテクニカルで、でも正直で、涙が溢れる映画をぼくは知らない。
泣ける映画ってバカにされがちだけど、そういう涙ではない。
ぐっと拳を握りしめる決意に似たさわやかな涙だ。
高校球児が流す涙に近い。
偶然にも甲子園が中止になったこの時期だから余計そう思うのかもしれない。
ぼくが高校生の頃は、
ひたすら寝てた。
しょうがないね~。
ブラスバンド部の背の低いよくしゃべる女の子がとびきりキュートでした。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
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