なぜ彼女たちは生きづらさを感じているのか? 女性の不安や息苦しさを切実に伝える3本

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82年生まれ、キム・ジヨン
『82年生まれ、キム・ジヨン』
2020年10月9日より公開
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82年生まれ、キム・ジヨン
『はちどり』公式サイトより
『幸福路のチー』公式サイトより

先日、ネットで調べ物をしていた時に、あるひとりの女性が投稿したツイートが目に入った。親族との食事中、投稿主は赤ん坊をあやしていたというが、どんどんと食事が冷めて乾いていくような状況だったにもかかわらず、まわりの人たちは誰も彼女を気にかけることもなく、手伝うこともなく、ワイワイ楽しそうに食事を進めていた光景が今でもトラウマであるのだと。その投稿には4万を超える“いいね”がつくなど、多くの女性からの共感の声、反響が広がっていた。

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世界経済フォーラム(WEF)は毎年、経済や政治、教育、出生率、健康寿命などをもとに、各国の男女格差を算出する「ジェンダー・ギャップ指数」を発表しているが、昨年12月に発表された調査では、日本は121位とG7先進国の中でも最低ランク。106位の中国、108位の韓国よりも下位につけている。総じて東アジアの国々の女性たちが生きにくさを感じているのはなぜなのだろうか。

先述した女性の投稿を見て、まず思いだしたのが、韓国のベストセラー小説を映画化した『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020年10月9日より公開)だ。主人公は、結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻であることを求められてきた彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。やがて彼女はまるで他人が乗り移ったような言動をとるようになり、夫のデヒョンは彼女の様子を心配し、妻に内緒で精神科医に相談に行く――。女性が漠然と抱いていた不安、生きづらさを繊細に描き出した同作は、多くの女性の共感を得ている。

そして『82年生まれ、キム・ジヨン』とのテーマの類似性が指摘され、ミニシアター系の映画館でロングランヒットを続ける韓国映画が『はちどり』だ。映画の舞台は1994年、韓国のソウル。急速な経済発展を続け、88年にソウルオリンピックを開催するなど国際化と民主化が加速、空前の経済成長を迎えていた時代の物語だ。主人公のウニは、先述したキム・ジヨンの少女期と同時代を生きた少女であり、男性優位の時代の中で、女性であるという理由だけで我慢しなくてはいけなかった。そしてそれがおかしいということに気がつかずに、息苦しさを感じていた、という共通点を持つ。思春期特有の揺れ動く思い、 家族や友人との関わりを繊細に描いた作品だ。

最後は台湾映画を紹介したい。台湾は、蔡英文が女性として初の総統に就任。全世界で猛威をふるう新型コロナウィルスに対しても迅速に対処するなど、そのリーダーシップに国内外から注目が集まっている。他の東アジア諸国に比べても、総じて女性の地位が高い台湾だが、そこで生きていくということはどういうことなのだろうか。台湾で生きてきた女性の半生を台湾の歴史と絡めて描き出したのは、アニメーション作品『幸福路のチー』だ。少女時代をノスタルジックに回想する語り口から、台湾版「ちびまる子ちゃん」と評する人もいる作品だ。夢多き少女時代、そこから成長し、自分らしく生きようとするも、うまくいかない挫折の日々、そして新天地を求めてアメリカに行くも、どことなく息苦しさを感じてしまう。そんな押しつぶされそうな思いを抱えていた彼女が、祖母の死をきっかけに故郷に戻り、自分を見つめ直していくさまはグッとくる。(文:壬生智裕/映画ライター)