スポ根サクセス・ストーリーの映画『タイピスト!』の舞台は、上級者向け“レトロポップ”インテリア
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ここで採り上げる映画『タイピスト!』は、2012年公開のフランス映画。監督は、レジス・ロワンサル。今回は映画の中のインテリアという観点から見直してみよう。
フランス北部の田舎町の雑貨店の娘ローズ(デボラ・フランソワ)は、店の商品であるタイプライターを我流で覚えたタイピングが気に入られ、都会の保険会社に就職を果たす。「何でも一番が大事」と言う社長ルイ(ロマンス・デュリス)はローズを気に入ったようだが、タイプライターの早打ち大会で優勝することを秘書として雇う条件にする。
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終始すがすがしいロマンティック・コメディ
ルイは、父の会社を引き継いだものの期待に応えられているとはいえず、何か自分ならではの実績とやりがいを求めていたに違いない。不器用だがタイピングには才能を感じるローズのことをダイヤの原石とばかりに入れ込み、助けようとする。若きレジスタンス時代に仲間を救えなかった自分を悔いていることも背景にあるようだ。
主人公のローズと社長のルイの特訓は、まさにスポ根モノ。10本指でのタイピングにピアノのレッスン、ランニングと、まるで女子代表選手と鬼コーチさながらだ。ルイがローズに「鬼コーチのふりをしてほんとうは優しい人」などと言われてしまうと、余計にロマンスに発展しない。
やがてローズが10本指でタイピングできるようになるにつれ、女っぷりにも磨きが掛かってくる。ノルマンディ地方大会で優勝すると、ふたりは急接近。しかし遂に全国大会で優勝したローズがアメリカのスポンサーと契約すると、ルイは彼女の元を去る。
終始見ていて幸せになれる映画で、キャラクターも映像もとても可愛らしい。
コーディネートのキーワードは“レトロポップ”
本作の舞台は1958年頃で、当時の特徴をひとことでいえば“レトロポップ”。ちょっとくすんでいるがオシャレな淡い色で、古めかしいけれど、どこか上品だ。
これは、コカコーラの赤を中心にしたカラフルなアメリカンレトロでもなければ、中央線のオレンジや山手線のグリーンようなカラフルさの昭和レトロでもない。古き良きフランスシックな色使いである。
ただ、サビを残したり、凸凹を生かしたりしながらシックに仕上げるのがポイントで、使い方を間違えると、ただ古くさくて貧乏くさくなる。
インテリアの注目は伝統的なフランスの家具
本作では、2つのインテリアに注目できる。
ひとつは、父が建てたルイの家。ルイは勤務時間以外にもローズを特訓するために自宅に下宿させる。もっとも、ルイは料理もこなすし、自分の洗濯は自分でするから、ローズが住み込みで働いているわけではない。
そんなルイの自宅は、ローズいわく「風と共に去りぬ」のよう。白を基調とした空間にアンティーク調の家具は、父親の律儀な性格を感じさせる端正な作りだ。
ただ、ルイの部屋はちょっと子供部屋っぽくて可愛らしい。基本はチークだが、オレンジのチェック柄の壁紙に、グリーンの絵柄が入った渋いカーテンが掛かっている。成功したローズと別れてから、このチェックの壁紙にローズの写真を貼って眺めるルイは、憧れの女優の切り抜きを飾っている少年のようでとても印象的だ。
オフィスもチークの木で覆われたクラシックスタイル。壁などはマットな質感のホワイトやナチュラルカラーがベースとなっている。
サクセス女子のインテリアはピンク中心のコーディネート
もうひとつは、ローズの部屋のインテリア。ピンクではあるが、オシャレな淡いカラーでにとどめていて好感が持てる。色だけでなく素材感といったバランスが絶妙のコーディネートになっている。
本作は、ルイとローズ、それぞれの登場人物の衣装とインテリアの掛け合わせが抜群で、おとぎ話の世界観を引き立てている。
そして、最後の決めぜりふ「アメリカ人はビジネスを、フランス人には愛を」 も、ハリウッド映画に対するフランス映画、アメリカンスタイルに対するフランスシックなインテリアの世界観とパラレルに考えると興味深い。(文:fy7d)
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