BL沼へと筆者を陥れた名作
劇場アニメ『囀る鳥は羽ばたかない』の原作は、ヨネダコウによる同名のBLコミック。この作品は裏社会が舞台だが、ヨネダコウが描くジャンルは高校生ものやガテン系など多岐にわたり、しかもどれをとっても非常に面白い。とても実力のある作家だ。
ヨネダコウの商業デビュー作は2007年に連載をスタートした「どうしても触れたくない」で、2014年には実写映画化もされて異例のロングランヒットも放っている。実は筆者が最初に読んだBL作品がこれで、あまりに良すぎたためにヨネダコウの他の作品も読んで魅せられ、どんどんとBLの世界にハマっていった。それゆえ、個人的に思い入れの深い作品だ。この作品が筆者の人生を変えたと言っても過言ではない。BLというジャンルはメジャーではないが、実は世間的に知名度が高くなくても名作が埋もれているのではないかと気付かされ、実際にそうであったから、いわゆる沼にハマって次々読み漁るようになったのだ。
言葉に頼らず絵で見せる、映画的表現に長けた作家
そんな「どうしても触れたくない」は、サラリーマン同士を描いたラブストーリー。内向的でおとなしいゲイの青年の嶋俊亜紀は転職して入った会社で、飄々としているが面倒見のいい上司の戸川陽介と出会う。はじめこそ二日酔いで吐きそうな戸川の印象は最悪だったが、いつしか目で追うようになる。戸川も自分を意識している嶋のことが気になり、食事に誘った夜に2人は関係を持つように。体の関係だけだった彼らだが、嶋が前の会社で傷つけられた過去があることを知った戸川は嶋のことを愛おしく思うようになる。
ネガティブで自己評価の低いゲイの青年と、明るくて社交的なノンケの上司。正反対のような2人が出会って惹かれ合ってゆく、平凡と言ってしまえば平凡と言える物語だ。ただ、セリフやト書きでの言葉による説明に頼らずに状況や心情を表現するのが非常に上手い。表情も印象的だし、シーンを挿入することで主人公の心に過ぎる過去を示したり、空間を使って物理的な距離を描くことで心理的な距離も表現したり。構図やカット割りも効果的な見せ方を心得ている。
なんて映画的な表現に長けた作家なんだろうと思う。言葉を使って理屈で伝えるのではなく、絵の流れで見せてゆく。それだけに頭で理解するというよりはダイレクトに心に入ってくるようで、登場人物に読者がシンクロしてゆき、クライマックスでは号泣してしまう。
名作映画のようなBLコミック
ノンケだから家庭が持てる戸川のことを思って嶋が離れようとするシーンなどは、ストーリー的にはBLの定番中の定番だが、胸が締め付けられるようで苦しくなる。戸川のタバコが出てくるシーンにしても、匂いも伴うタバコは吸っていた人を一気に思い出させるものだろうし、書かれた文字もその人の存在を感じさせるものだし、嶋への愛情をじんわりと感じさせる。小道具ひとつでさまざまな感情を感じさせるのはニクいと思うほど上手い。そして感情が自分の中から噴き出してきて涙が止まらなくなる。
何度読んでも泣かされるし、映画のように「このカットはそういう意味だったのか!」と発見がある作品だ。ぜひ何度も読み返して欲しいし、この作品が気に入ったら他の作品も手にとってみて欲しい。どの作品も良質な映画のようだから、きっとどれを読んでも満足してもらえることだろう。(文:牧島史佳/ライター)
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