疎開先のスイス、フランスのインテリアにも注目! 世界的絵本作家の子ども時代を映画化『ヒトラーに盗られたうさぎ』
#オリヴァー・マスッチ#カーラ・ジュリ#カロリーヌ・リンク#ジュディス・カー#ヒトラーに盗られたうさぎ#映画の中のインテリア#映画好きの人と繋がりたい#自伝
「おちゃのじかんにきたとら」など、シンプルで味わいのあるイラストで世界中の子どもから大人まで夢中にしてきた世界的な絵本作家ジュディス・カー。惜しくも2019年5月に95歳でこの世を去ったが、彼女が少女時代の体験をもとに書いた自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を原作に映画化された『ヒトラーに盗られたうさぎ』が、11月27日より全国で公開される。
監督は『名もなきアフリカの地で』(01年)で第75回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したカロリーヌ・リンク。ナチス逃亡の物語という暗いテーマを扱いながら、現在の私たちにも共感できる内容とともに、どこか温かい映像に仕上がっている。
ここでは逃亡先のインテリアにも着目しながら、紹介したい。
白いリビングに可愛らしいこども部屋、重厚な父の書斎が暗示
9歳の少女アンナ(リーヴァ・クリマロフスキ)が、ナチスが政権を握る直前の1933年に、その迫害から逃れるために家族とともに故郷ドイツを出国し、スイス、フランスを経て1936年にイギリスへと渡る。
その過酷な逃亡生活の過程で、貧困や差別といった困難を乗り越えながら、父(オリヴァー・マスッチ)や母(カーラ・ジュリ)、兄(マリヌス・ホーマン)といった家族が、一家に気に掛けて情報とアドバイスをくれるユリウスおじさん(ユストゥス・フォン・ドホナーニ)のサポートを受けながら、前向きに乗り越えていく。
冒頭、ナチス前夜の故郷での家族と家庭の描き方は、何不自由ない家庭の日常として描かれる。
母と兄、家政婦のハインピーと住む家は、白を基調に木のテーブルや椅子のクラシックなインテリア。丸いランプがかわいらしく、部屋のコーナーに置かれたスタンドライトのファブリックと、ギャッペや絨毯が、花瓶や絵画と共に差し色としてあたたかみを加えている。
ダイニングキッチンスペースは、白いタイル貼りにグレイッシュなブルーを組み合わせた上品な小空間。アンナの子ども部屋のベッドヘッドの模様もかわいらしい。
この時点ではきちんと状況を把握していないアンナだが、子どもながらに異変に気づいている。先生は楽しい絵を描けというのに、船が沈没する絵を描いたり。
それに対し「他人の意見は気にせず自分の思うままに描け」という父。ナチスに反対する立場にあって体調を崩す父に「愛が一番の薬」だと寄り添うアンナのけなげな姿と背後の本棚からは、父が作家であり、のちに絵本作家となるアンナに多大な影響を与えたことが伝わる。
避難先のスイスは、開放感と温もりのインテリア
やがてナチスが政権を取る頃には、父はチェコのプラハに逃れ、それを追って家族もスイスに渡る。
持って行けるぬいぐるみはひとつだけ。ウサギとテリーで迷ったアンナに、ウサギは後送してあげると、家政婦のハインピーが申し出る。これがのちに没収され、映画のタイトルとなるのだが……。
疎開先のスイスの田舎は、『サウンド・オブ・ミュージック』さながら。開放的な山の斜面、鳥のさえずるアウトドアでのダイニングが印象に残る。
インテリアは、古い石造りの家にところどころ剥がれたり薄汚れた塗り壁だが、イエローをアクセントにした壁やフリルのシェードのランプ、花柄のカーテンなどで侘しさを隠す。子どもたちを心配させないようにという親心だろうか。母のピアノも響く素敵なインテリア空間で、屋内外で無邪気に遊ぶ子どもたちの明朗さが際立つ舞台となっている。
「過去にこだわっていると視野が狭くなる」と諭す父に従い、最後には善が勝つと励まし合いながら、心の光を灯し続けよう、輝きが消えないようにと、アンナはカレンダーを付け始める。
パリのボロアパート“灰色の家”にくすぶる情熱の赤
一家はさらにパリへ逃れることに。
ぐんと狭くて古い灰色のアパートは薄暗い。だが、白に赤いチェアは、善の心に宿り続ける熱い情熱のよう。配管が剥き出しの壁だが、柄の壁紙やテーブルクロスで工夫次第で少しでも心華やぐ空間にしている。家賃が払えずロウソクの火で暮らしていても、どこか温かい印象だ。
ゴージャスな壁紙にグランドピアノを備えた、パリの7区にある劇作家シュタインの家と対照的に描かれるが、アンナは自分の住まいをさほど気にしていないようだ。
髪がボサボサな妻のために父がスイーツを買ったり、クリスマスには子どもたちのみならず妻にもプレゼントを買うシーンなどを通じて描かれるのは、逆境でこそ「唯一信じるのは感謝だ」ということ。父は子どもたちに、深い知識やものの見方を教え続けて気丈に振る舞い、アンナはパラパラ漫画を作り、家族を明るくするのだった。
逆境にあっても、心は常に豊かでありつづけた
ラストはイギリスへ渡ることになり、一家は“灰色の家”を出て行く。
「英語は一言も分からないけどイイの。すぐ分かるようになるから」という言葉に、家族が居れば何処に行っても前向きに生きていけるという勇気と信頼が見て取れる。
本作の途中、アンナが、「うち、貧しいの?」と家族に尋ねるシーンがある。どんな逆境に遭っても、彼女の心は常に豊かだったのだ。
ドイツ、スイス、フランスと、それぞれでのインテリアが家族の当時の状況を提示すると同時に、ワンポイントのエピソードやギフトのやりとりが家族の絆を描き出した本作。昨年のクリスマスシーズンにドイツで公開された際には『スター・ウォーズ/スカイ ウォーカーの夜明け』、『アナと雪の女王2』、『ジュマンジ/ネクストレベル』といったハリウッド超大作がひしめく中で大ヒットを記録したというのも頷ける、ハートウォーミングな名作といえるだろう。
『ヒトラーに盗られたうさぎ』は、11月27日全国公開。(文:fy7d)
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