【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第16回】
ムービーコレクションで映画のコラムを1年書かせていただきました落語家の瀧川鯉八がついにこの度、映画に出演することになりました!
きゃほーい!
誰かがこのコラムを読んでくれていたのでしょうか。
でも役者として起用したいと思わせることなどなにも書いてはいなかったはず。
なぜオファーをいただいたのかは聞いてません。
こわくて。
謎のままのほうがいいかもしれないと思って。
大したことない理由だったら嫌だもの。
なにかのきっかけでぼくの落語を聴いて、
「この人はきっと素晴らしい演技ができる!」
とか
「こんな逸材を落語の世界にだけ閉じ込めておくわけにはいかない! もっと大きなスクリーンでこの才能を世の中に知ってほしい!」
とかであってほしいもの。
誰でもよかったんですよね~とかだったら嫌だもの。
・祝! 鯉八さん初めての映画出演、場面写真とスナップはこちら
なんにせよ、映画に出ることができて嬉しい。
でもいざとなると、なにをどうしていいのかわからない。
他の出演者とかスタッフのみんなと初めて会うときの映画界の作法とかあるのかなと不安になったり。
映画の世界って職人さんの集まりですごい厳しそうだし。
ビクビクしながら初めての打ち合わせに。
ダダビというCMなど色んなクリエイティブな会社が手掛ける映画だという。
ダダビの安村栄美さんという女性の監督の初作品だという。
脚本はアサダアツシさん。
ぼくの大好きな今泉力哉監督の『his』の脚本家。
安村監督はCMやテレビ番組や音楽のPVなど様々なアート作品を手掛ける映像作家だという。
きりゅう映画祭の正式招待作品なんだという。
なんだかとても楽しそうな匂いがプンプンした。
ダダビのスタッフがとても若く、自由な雰囲気が快適で。
初監督作品だから怒鳴られることもないだろうと。
会社としても初めての映画なんだから、ぼくのあまりの演技の下手さに落胆されることもないだろうと。
実際そのとおりでみなさんにとても優しくしていただいた。
なにより安村監督にはとても気を使っていただいた。
柔和な笑顔の方で、いつもニコニコしてくれているから現場も和やか。
これはとても大切なことだと思う。
ピリピリしてる現場からは明るいアイデアやいい仕事は生まれない。
思考は常にリラックスしていなければ人を上手には動かせない。
監督は初作品なのにそれができた。
頭のなか色んな段取りなどでいっぱいいっぱいなはずなのに、あれだけ現場を明るくできるのはすごい才能。
10代の役者さん4人が主役。
みんな大手事務所で揉まれながら芸能活動をしている方々だから、映像に栄える。
ぼくは芋顔だから、もうそこから全然違うなと思った。
映画はやっぱり画の力が必要なのだ。
礼儀正しい4人。
こんなに礼儀正しい若者が令和の時代にいるものか。
ぼくは主役の父親役。
母親役にはナイロン100℃の菊池明明さん。
女優さんというのはこんなにも美しいものなんですね。
街で歩いてる美人とも違う美しさ。
舞台で人に見られてるとこんな表情になるものか。
みんなプロの役者さん。
すっかり場違いなとこに来てしまったとは思ったが、そんな思いを悟られては、なにかとこれからやりづらい。
主導権を持ってかれる!
一切動じてませんとポーカーフェイス。
役者とはこうあるべきだ。
自信がないことを感じさせては駄目なのだ。
よく役者さんが舞台挨拶なんかで、
「この映画はスタッフみんなで作り上げたものです」
などと話しているが、
「嘘つけ! 本当はてめぇの手柄だと思ってるくせに!」
と思っていたが、それは間違いだった。
スタッフはみんな滝のような汗を流しながらずっと動いてる。
役者は待っているだけの仕事だ。
待つことが仕事だ。
スタッフはずっと動いてる。
頭が下がる。
こんなに重労働なのか。
そうまでして作り上げる価値があるのか映画には。
そうまでしても映画を作りたいのか。
作りたいのでしょう。
それだけの情熱を傾けるほどの魅力が映画にはあるんだろうな。
それに気づいて人生を捧げることができる人は幸せなんだろうな。
まだ映画には夢があるみたい。
それに参加できて光栄。
完成した映画『WAO』を観せてもらったけれど、安村監督の才能にぶったまげた。
自分の撮影シーンがこうなるのか。
こうなると思って撮影できていたのか初めての映画なのに。
CMとかPVで培ったであろう手法が、すごくモダンに映った。
ああ、この監督はこれからすごい評価を得るのだろうなとはっきりわかった。
映画は少しSFチックではあるので非常にセンスが問われる。
真正面からSFに取り組むとどうしても予算がかかる。
それを知恵と工夫でオシャレにカラッと揚げた。
おしゃれ揚げ。
味わったことのない映画となっています。
ぜひ安村栄美の名前は覚えておいたほうがいいと思う。
ありがたいことに別件で違うとこからもう1本映画の話をいただく。
「瀧川鯉八は日本のソン・ガンホだ」
と呼ばれる日が来るのもそう遠くはないだろう。
が、近くもないだろう。
『WAO』は、群馬県桐生市を舞台にしたSF群像劇。第10回きりゅう映画祭公式招待作品(2020年10月17日に開催)
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
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