今年6月に国会成立が見送られ、継続審議となっていた種苗法改定が2020年11月17日に衆議院農林水産委員会で可決された。これは品種登録された農作物の種子の自家採取や、自家増殖などをこれまでの自由制から、許諾制に変更する法案で、種苗育成農家の保護、農作物ブランド品種の海外流出などを防ぐために作られたもの。だが、許諾制に移行することで、種子や苗などの購入負担が大きくのしかかり、中小規模の農家の経営が成り立たなくなるのではないかとして、反対の声も根強い。今回は、ドキュメンタリー作品などを通じて描かれる、農業における“タネ”について考えてみたい。
・『モンサントの不自然な食べもの』マリー=モニク・ロバン監督インタビュー
劇場緊急公開中! 日本の農業の現場を取材した『タネは誰のもの』
ドキュメンタリー映画『タネは誰のもの』(2020年)(11月13日より東京・アップリンク渋谷にて緊急公開ほか全国順次公開中)は、自家採種・自家増殖している農家と、種苗育成農家双方の声を伝えるため、北海道から沖縄まで様々な農業の現場を取材し、種苗法改定案が日本の農業にどのような影響をもたらすのか、その可能性を、専門家の分析も含め、農業の現場から探ったドキュメンタリーとなる。プロデューサーは弁護士で元農林水産大臣の山田正彦。監督は『いのち耕す人々』『無音の叫び声』『お百姓さんになりたい』など、一貫して農業をテーマにした作品を発表する原村政樹が務めている。今回の法律がなぜここまで賛否両論の声を巻き起こしているのか。現場の声を通じて、その一端が垣間見えてくるようにも思える。
グローバル企業の実態を描いた『モンサントの不自然な食べもの』
生物の根幹である「種子」を支配すれば、利益を追求することができる――。世界の遺伝子組み換え作物市場の90%を誇るグローバル企業「モンサント社」の裏の姿に迫ったドキュメンタリー映画が『モンサントの不自然な食べもの』(2008年)だ。フランスのジャーナリスト、マリー=モニク・ロバンは、アメリカに本社を構えるアグロバイオ企業「モンサント社」の黒い噂を調べるべくインターネットで情報を集め、そして世界中を飛び回り、その噂を検証する。遺伝子組み換えの種子や苗に特許をとってしまえば、そこで金儲けができる。だがそれが消費者にどれだけの犠牲を強いることとなるのか。そうした驚くべき現実が赤裸々に暴き出される。
種子の94%が20世紀中に消滅!? 『シード~生命の糧~』
人間にとって種子とは、過去に育まれた命の恵みを未来へとつなげる大切なものである。しかし、前世紀中に野菜の種子の実に94%が消滅したのだという。気候変動や、世界の種子市場を多国籍企業が独占したことが大きな要因だ。市場には遺伝子組換え作物(GMO)が登場し、多くの国々で農家が種子を保存し翌年蒔くことが禁止されるようになった。そんな種子をめぐる現状を描き出したドキュメンタリー映画が『シード~生命の糧~』(2016年)だ。「種子は私たちの子孫」とトウモロコシの種を守り続けるアメリカの先住民、人類の終末に備えて最大300万種の種を貯蔵できるシードバンクのスヴァールバル世界種子貯蔵庫に種子を保存する人々など、この映画には、失われようとする種子を守ろうと立ち上がった人々が登場する。
これらの作品は、日本の食卓の未来を考えるための一歩にもなりそうだ。(文:壬生智裕/映画ライター)
『タネは誰のもの』は、2020年11月13日より全国順次公開中、11月1日よりオンライン配信中
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