【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第17回】
テレビを観ていたら、映画『魔女がいっぱい』が公開します! というコマーシャルが流れまして、
ビリビリビリビリビリーーー!
と全身に衝撃が走りました。
小学校の図書室での思い出が一瞬で甦ったのです。
映画『魔女がいっぱい』は、監督がロバート・ゼメキス、主演がアン・ハサウェイ。
ロバート・ゼメキスといえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『フォレストガンプ』の監督。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の監督というだけで生涯どころか未来永劫崇拝される映画人。
エンタメの最高峰として燦然と輝き続ける方。
そんな監督の最新作。
アン・ハサウェイさんは素敵な方。
そんな俳優さんの最新作。
そんなふたりだから、ビリビリきたわけじゃない。
児童文学「魔女がいっぱい」を小学生の頃夢中になって読んでいたから。
ロアルド・ダールの虜だった。
『チャーリーとチョコレート工場』の原作も書いた作家です。
といっても、当時は名前なんて覚えていなかった。
時にナンセンスで、ユーモアたっぷりで、その想像力は無限で、夢のような世界で、軽いタッチで。
軽いタッチというのは誰でもできる技ではないのです。
映画も文学も落語も。
・「図書室から借りたままのやつではありません」と鯉八さん。写真はこちら
すべての子どもが読んだほうがいいし、こういう本が課題図書になってくれると笑顔がキュートな大人に育つと思います。
そして挿し絵のクェンティン・ブレイク。
この方の存在が欠かせません。
これまた軽いタッチのユニークな画風ですが、奇妙なおどろおどろしさもあって。
魔女はこわいけどお友達になりたいって気持ちにもさせてくれる。
今でも街で、カフェで、レストランで、髪の毛の生え際を指で掻いてる女性がいたら魔女かもしれないとドキドキしています。
こんな物語はぼくだけのものしてしまいたいと小学生のとき思ったんです。
精神的にケチなんです。
いいものは自分だけのものにして、みんなには内緒にしておきたいと思ってしまう性格なんです。
小学校の図書室で本を借りると、その返却期限は1週間。
「魔女がいっぱい」は1冊しかなかったので、誰かに借りられていくのが嫌で、返したらまたすぐ借りてました。
笑顔がキュートな大人になるのは僕だけで充分だと考えていたのです。
意地の悪い魔女みたいな話です。
貸出カードが真っ黒になっていくのも嬉しかった。
(貸出カードというのは若い人にわからないかもしれません。ジブリ映画の「耳をすませば」で重要なアイテムとして出てくるのでご覧ください)
本が好きで図書室に通いつめているような賢いクラスメートに憧れてて。
そういう子は成績もよくて。
怪人二十面相が出てくる「少年探偵シリーズ」なんかずらっと借りてて。
僕は本を読むのが苦手で億劫で、図書室にある本のページの独特の匂いも嫌いで、楽しく読めるのがロアルド・ダールだけで。
僕の貸出カードには「魔女がいっぱい」の文字だけが書かれていて。
でも図書の先生だけは、図書の先生って仕事はあるのかわからないけど、先生ってみんな言っていたし、図書室に通う子たちには「のぐっちゃん」のニックネームで親しまれていた野口先生は僕の貸出カードを見てもやさしく微笑んでくれました。
ロアルド・ダールの本を愛読していた人の笑顔でした。
のぐっちゃんは、たまにある読み聞かせの時間でも活躍します。
部屋を暗くしてロウソク1本だけ灯をともした空間。
ヤマンバの話を読んでいたときに、感情移入しすぎて毛が逆立っていました。
その姿がローソクの火の影となり背後の壁に映し出されてたことを記憶しています。
ヤマンバは魔女のことなのかもしれません。
読み終わると、のぐっちゃんは指でその火を消していました。
そんなことをテレビコマーシャルを観て思い出しました。
映画も音楽も記憶を掘り起こしてくれるものです。
ぜひ年末年始劇場に足を運んでいただければ幸いです。
ちなみに貸出カードが「魔女がいっぱい」ばかりでは恥ずかしくなったのか、1度だけ「パンの作り方」みたいなタイトルの図鑑を借りたことがあります。
インド人が両手でパンをこねて、足を使ってビョーンと伸ばしている写真が載ってました。
廃刊になっているのが濃厚です。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
『魔女がいっぱい』は12月4日より公開中
(C)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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