朴正煕大統領暗殺事件の背景に迫る実録タッチのフィクション
【週末シネマ】韓国が2021年のアカデミー賞国際長編映画部門の候補として出品した『KCIA 南山の部長たち』は、1979年に起きた朴正煕大統領暗殺事件を、主犯の立場から描く重厚な政治スリラー作だ。
1960年代から続いた軍事独裁政権の朴大統領は1979年10月26日、直属の諜報機関・韓国中央情報部(通称:KCIA)の部長によって射殺された。1990年から東亜日報で連載された記事をまとめたノンフィクションを原作に、史実と異なる脚色もまじえた映画の登場人物は、本部の所在地にちなんで「南山(ナムサン)」とも呼ばれた実在の関係者たちがモデル。「こうだったかもしれない」という大統領暗殺の背景に迫る実録タッチのフィクションだ。
『インサイダーズ/内部者たち』のウ・ミンホ監督のもと、同作でも主演を務めたイ・ビョンホンや、イ・ソンミン(『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』)、クァク・ドウォン(『哭声/コクソン』)ら実力ある俳優たちが揃う。イ・ビョンホンが演じるのは、KCIA部長キム・ジェギュをモデルにしたキム・ギュピョン。もう1人、KCIAの元部長で、海外へ渡航した後に内部告発者となったパク・ヨンガクをクァク・ドウォンが、側近の銃弾に倒れた朴大統領をイ・ソンミンが演じる。
No2の座にいながら男はなぜ行動を起こしたのか?
大統領暗殺の40日前から物語は始まる。KCIA元部長パクが亡命先のアメリカで「コリアゲート」における韓国政権の不正を告発したことから、朴大統領(イ・ソンミン)の命を受けて現部長のキム・ギュビョンは渡米、かつての友人であるパクと接触する。パクのモデルとなったキム・ヒョンウクは1969年にKCIA部長を解任された後、1973年にアメリカへ亡命し、同国で不正告発を行った後の1979年10月にフランスで失踪している。
劇中で描かれる新旧の部長同士の関係は創作だというが、同時期に起きた2つの事件は関連づけた展開は興味深い。
大統領に次ぐ権力を持つ機関のトップを務めながら、なぜキム部長は行動を起こしたのか? イ・ヒジュン(『1987、ある闘いの真実』)が演じる大統領を強く崇拝する警護室長との対立、政権に反発する民主化運動の高まり政治家や軍上層部の思惑も絡み、アメリカやフランスにまで舞台を広げて、さまざまな策謀を巡らせた闘いが繰り広げられる。
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韓流きってのスター、イ・ビョンホンの抑えた演技が光る
韓流スターの草分けの1人で、ハリウッドでも活躍するイ・ビョンホンは地味なスーツにメガネといういでたちで、事件に至る40日間で追いつめられていく主人公を抑えた表現でリアルに演じる。圧倒的な権力で国を支配し続けた大統領を演じたイ・ソンミン、内部告発者パクを強烈な存在感を放ちながら演じたクァク、実在の人物に外見を近づけるために25kg増量して撮影に臨んだイ・ヒジュンといったキャストの演技がリアリティをもたらす。
アメリカのワシントンD.C.やフランスでもロケを行い、スケールの大きな作風は見応え十分。韓国近代史に詳しくない観客にも、政治スリラー映画としてアピールしそうだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『KCIA 南山の部長たち』は、2021年1月22日より公開
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