インパクトある楽曲だけでなく、抽象的なサウンドも手掛けるように
【日本の映画音楽家】坂本龍一(2)
坂本龍一の手がける映画音楽は、メロディ志向のものとサウンド志向のものに大きく分けることができる。明確なメロディによって映画そのものを引っ張る前者には大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(1983年)やベルナルド・ベルトルッチ監督『ラストエンペラー』(1988年)や『シェルタリング・スカイ』(1991年)が、抽象的なサウンドによって映像にぴったりと寄り添う後者にはフォルカー・シュレンドルフ監督『侍女の物語』(1991年)やペドロ・アルモドバル監督『ハイヒール』(1992年)などが当てはまり、90年代以降の作風は特に後者の色合いが強くなってきている。
・【日本の映画音楽家】坂本龍一(1)/映画音楽家・坂本龍一のキャリアは『戦場のメリークリスマス』から始まった
たとえばジョン・メイブリー監督『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』(1998年)。坂本がベイコンのファンだったことからノーギャラで引き受けた仕事ということで、ローバジェットな制作を余儀なくされた本作は、プライヴェート・スタジオでほとんどひとりで作り上げられている。それがかえって独特の手作り感を醸し出し、数ある坂本龍一のサウンドトラックでも密かに人気が高い一枚だ。
メロディとサウンドの要素のバランスに優れた『御法度』
1990年代初頭、坂本龍一が再び大島渚監督と組み、『ハリウッド・ゼン』という映画でかつての日本人ハリウッド俳優、早川雪舟の半生を演じることがアナウンスされたが、のちにその企画は消滅。大島監督とのコラボが再び実現したのは1999年の『御法度』で、この作品では「映画界の恩師」に敬意を表するように、メロディとサウンドの要素をバランスよく同居させている。
同じく1999年の日本映画『鉄道員』では、作詞=奥田民生/歌=坂本美雨で主題歌を書き下ろし。自らのピアノソロ・ヴァージョンのほか、大貫妙子とのデュオ・アルバム『UTAU』でもリメイクしており、特にこの『UTAU』ヴァージョンは一聴の価値ありだ。このアルバムでは、ブライアン・デ・パルマ監督『ファム・ファタール』(2002年)に坂本が提供した「Lost-Theme」という曲に大貫が歌詞を付けた「Antinomy」も収録されている。
ピアノアルバムとしても聴きごたえのある『トニー滝谷』
2000年代以降も坂本龍一はさらにハイペースで多くの映画音楽を手がけていて、村上春樹の短編を映画化した『トニー滝谷』(2004年)のほか、『星になった少年』(2005年)、『シルク』(2008年)など、聴き応えのあるサウンドトラックが揃っている。なかでも『トニー滝谷』は、村上作品の映画化という話題性もさることながら、坂本のピアノアルバムとしても聴ける素晴らしい内容となっている。音数が抑えられ、どこまでも上品で優しいトーンにまとめられており、先の『御法度』と対照的ではあるものの、これもまたメロディ志向とアンビエント志向の中間にあるような作品と言える。
つい先日、直腸がんを罹患したことを報告したばかりの坂本龍一。すでに手術も終えているとのことで、また近いうちに元気な姿を見せてくれたらと思う。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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