少年が封印を解いた“親友”はやがて暴走し始め…。
【週末シネマ】孤独な少年のたった1人の親友は、空想上の存在だった。よくある設定で、ストーリーの展開も読めそう。その予想をどう裏切っていくか? 『ダニエル』は作り手側の挑戦を楽しむサイコ・ホラーだ。
・イ・ビョンホンが大統領暗殺犯を熱演! 衝撃の事件に迫る政治スリラー
主人公のルークは幼い頃にある事件に遭遇し、それをきっかけに“ダニエル”と名乗る少年と出会う。離婚した母親と暮らす内気なルークを鼓舞し、困った時には兄のようにアドバイスするダニエルだが、彼がルークの空想上の親友であることは明白だ。ルークの母親も、そしてルーク自身もそれを承知している。だが、やがてルークはダニエルの存在を封印せざるを得なくなった。
数年が経ち、大学生活でも鬱屈した日々を過ごすルークはカウンセラーの助言を受けて、封印を解いてダニエルと再会する。瞬く間に友情を取り戻し、ダニエルは優秀なコーチング・トレーナーのごとくルークに的確な助言で自信をつけさせ、気になる女性へのアプローチ法なども指南。だが、「僕は君の一部だ」と常に寄り添う親友は、やがて暴走し始める。
T・ロビンスとS・サランドンの息子&シュワルツェネッガーの息子が才能発揮
成長したルークを演じるのはマイルズ・ロビンス。『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスとスーザン・サランドンの息子だ。ダニエルを演じるのはアーノルド・シュワルツェネッガーの息子で『ミッドナイト・サン~タイヨウのうた~』などで知られるパトリック・シュワルツェネッガー。ロビンスは自信がなく、周囲から孤立している青年を繊細に演じ、シュワルツェネッガーは自信たっぷりで容姿端麗なダニエルがはらむ狂気も見事に演じ、二世俳優共演という興味本位の期待以上のものを返す才能を発揮している。
ルークが恋をする若きアーティスト、キャシーを演じるサッシャ・レイン(『アメリカン・ハニー』)、レインが出演した『After Everything(原題)』で長編監督も務めたハンナ・マークスと、女性キャストにも将来を嘱望される才能を揃えているのに注目したい。
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肉体がないというだけで“リアルではない”のか?
ルークは精神を病む母と同じ道をたどるのではないかという不安を抱え、救いけを求めて行動するが、より深みにはまっていく。
ダニエルは実在しない。だが、肉体がないというだけで“リアルではない”と言い切れるのか? 傍から見れば、そこにいるのはルーク1人だが、ルークは常にダニエルと相対している状態。“2人で1人”という状態はルークとダニエル、観客も共有する感覚だが、2人の関係性は実に複雑に絡み合い、分裂もすれば文字通りに一心同体にもなる。
ホラー的な要素も取り入れながら、精神の問題というデリケートな領域に踏み込む秀作を手掛けたのは『デッド・ガール』(15)で好評を得たアダム・エジプト・モーティマー監督と共同脚本のブライアン・デリュー。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで知られ、近年は映画製作でも活躍中のイライジャ・ウッドがプロデューサーを務めている。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ダニエル』は、2021年2月5日より公開
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