“ドシラ、ドシラ”の旋律が怪獣・特撮映画の音楽の方向性を決定づけた
【日本の映画音楽家】伊福部昭
1954年、『ゴジラ』の“ドシラ・ドシラ・ドシラソラシドシラ”という、4つの音階を行き来するだけのシンプル極まりないメインタイトル一曲で、その後の怪獣映画・特撮映画の音楽の方向性を決定づけた伊福部昭。戦前・戦後にかけて純クラシックやバレエ音楽、映画音楽などの分野で着実にキャリアを積み上げてきた伊福部が怪獣映画の音楽を手がけるにあたり、当時仲間内からは反対の声が少なからず上がったという。しかし、アマチュアギター奏者の兄を戦時科学研究の放射線障害で亡くし、自身ものちに同じような状況下で被曝した経験から、伊福部にとって水爆実験が生み出した怪獣=ゴジラの存在は他人事ではなかったのだろう。周囲の意見に耳を傾けることなく、オファーを二つ返事で受けたと言われている。
・映画音楽家・坂本龍一のキャリアは『戦場のメリークリスマス』から始まった
伊福部の楽器の鳴らし方を「豪快」と評した大友良英
2014年に刊行された『伊福部昭 ゴジラの守護神・日本作曲界の巨匠』(河出書房新社)は、本人の生前の発言やフォロワーたちの証言などを集めたムックで、音楽家・伊福部昭のエッセンスを知るにはちょうどいい内容なのだが、その中で大友良英がこんな発言をしている。
「伊福部さんのオーケストラの鳴らし方って相当個性的で、西洋クラシックを同じ楽器を使っていると思えないところがあって。とにかく鳴らし方が豪快でしょ。西洋音楽の楽器なのに、モンゴルかどっかの音楽みたいに聴こえる」
実際、メインタイトルをはじめとする『ゴジラ』の音楽は、コントラファゴットやチューバの中低音を活かした、ある種ロック的な荒々しさをアピールするサウンドに仕上がっている。ラヴェルの『ボレロ』を思い出させる中間部の銅鑼の響きも攻撃的で、当時の子どもたちを本気で怖がらせるために全力でタクトを振る伊福部の姿がありありと想像できる。実験音楽やフリージャズに軸足を置きながら、2013年の連続テレビ小説『あまちゃん』ではお茶の間にも親しまれる劇伴を手がけるなど、幅広い音楽性で知られる大友良英らしい分析だ。
“体感する音楽”を突き詰めていたような職人肌の伊福部
また、伊福部昭から作曲や記譜法について直接アドバイスを受けたという上野耕路は、同書の中で伊福部の映画音楽の作法について聞かれ、以下のようにコメントしている。
「伊福部さんは、純音楽の成果を全部、映画音楽に投入してますよね。面白いことに、武満徹さんは逆だったりしますね。映画音楽で実験したことを純音楽に反映させる。これは両方ありと思うんですけれど」
この上野のコメントは、キャリアを重ねるにつれて明らかになった両者の違いを端的に言い当てている。つまりは、アーティスト肌の武満と職人肌の伊福部。ほぼ独学で作曲をマスターしたという点で、伊福部と武満の出自には似たところがあるのは確かだが、武満が映画音楽などで様々な実験を繰り返しながらシンプルで洗練された“美しい音楽”へと向かっていったのに対して、伊福部は最後まで『ゴジラ』でのリズムや旋律の反復を軸にした“体感する音楽”を突き詰めていたように思える。近年、武満の歌曲が国内外のシンガー・ソングライター系アーティストによって積極的にカヴァーされ、伊福部の音楽がテクノやダンスミュージックの文脈から再評価されたこともその表れと考えていいだろう。
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1954年の旋律は「平成ゴジラシリーズ」にも受け継がれた
『ゴジラ』のメインタイトルは、いまやゴジラのサウンドロゴと言っていい存在となり、「平成ゴジラシリーズ」でも引き続き使用されたほか、2016年の『シン・ゴジラ』や2019年の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でも、より重厚なアレンジで演奏されている。この『ゴジラ』のメインタイトルが伊福部昭の代表作であることは間違いないが、近年の再評価を契機に他の映画音楽や純クラシック音楽、舞踏音楽にもスポットが当たることを願いたい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
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