自己責任とは何か? 日本が人質を救えなかった理由を生還ジャーナリストが激白

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ある人質 生還までの398日
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報道されないISの実態

IS(イスラム国)の人質となりながら、家族の奔走、そしてコミュニティの協力によって奇跡的に生還した若き写真家の実話を描いた映画『ある人質 生還までの398日』が2月19日に公開される。それに先立ち2月7日に、自身もシリアで武装勢力に拘束された経験を持つ安田純平が登壇したトークイベントが行われた。

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安田は、主人公ダニエルと同じ部屋に監禁されていたアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーと交流がある。映画評論家の森直人の司会により引き出された、安田にしかわからない内容と距離感での話は、2011年から現在も続くシリア内戦のみならず、人の命や人生についても考えさせられる。

「月に一度の生存確認」の意味

安田は、2012年にシリア内戦の取材をしていたときに、人質となって過酷な時間を過ごしたダニエルとともに重要な役割を担っていたジェームズと同宿していたという。

「映画の中でジェームズが話している様子は、ほんとうにジェームズを見ているようで。彼はとても紳士的でかっこいい。日本人の山本美香さんが2012年8月に亡くなったときも、色々情報を送ってくれました」

そのジェームズは、2014年に肥大化したIS(イスラム国)の手に掛かりアメリカ人初の犠牲者となる。その後、日本人の後藤健二と、その救助に向かった湯川遙菜が亡くなっている。

安田によれば、シリアの反政府組織はISのほかに何百という組織があり、商売として裏で交渉する組織も多いという。そしてイスラム国の場合は、見せしめ動画を流す時点で交渉はすでに厳しくなっており、むしろ自分たちを世の中にアピールするのが狙いであると。

「最初は秘密裏にやる。騒ぎになったら交渉できなくなりますからね。私の場合は、家族にも一度メールが来たんですが、日本政府は絶対に交渉はしない、身代金は払わないというのが絶対のルールでした。後半のほうは商売でした。日本政府が乗ってこないので、メディアに売りに来る奴がいる。5000ドルぐらいの話で持ちかけてくるらしいです」

人質交渉の専門家アートゥアが存在し、安田が拘束された時にも安田の家族の元に毎月2万ドルないし20万ドルの見積もりを持ってやってきたという。

「ニュースを見た関係ない奴らも情報を持っていると言ってたくさん近寄ってくる。その中で、本当かどうかを見極める手段は、本人しか知らないことを質問するのが一番なんです。DNAだと、死体からもとれるから。逆にいうと、拘束されている間に自分しか答えられない質問を聞かれないのなら、生きているかどうかの確認がされていない、つまり取引や交渉がされていないということなんです」

アメリカやイギリスは交渉をしないから、人質はこうした質問を受けることはない。一方、別のスペイン人には月に一度そういう質問が来ていたと安田は言う。

「それは生きているかの確認で、これから救出するから無茶するな、頑張れという励ます意味合いもあったんです」

「自己責任論」と人質救出活動

この映画でも描かれている、国による対応の違いや自己責任論についても話が及んだ。

安田は、本人が行動した結果起こることは自己責任に決まっている、と述べた上で「『自己責任』というのは、政府や周りは関係ないですよ、という意味なんです。だから本人に自己責任論を問うのは違う」と述べた。

スペインのように政府が対応する場合もあれば、本作品のダニエルのように社会として救出できるかもしれない。

「アメリカやイギリスは中東へ軍隊を出して戦争をしているので、そこで人質を取られて政策の変更を要求される、ジャーナリストは救出しなければならない、でも身代金を渡すことは相手方に資金を渡すことになる、というステージで葛藤している。しかし日本はそのはるか手前。ダニエルはみんなでお金を出し合って救出できたが、なぜ後藤さんや湯川さんは救出できなかったのか、ということなんです」

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