ゴールデン・グローブ賞最多6部門ノミネートのNetflix映画
【週末シネマ】2021年2月28日(現地時間)発表の第78回ゴールデン・グローブ賞映画部門で最多6ノミネートを獲得した『Man/マンク』は、昨年12月から配信中のNetflixオリジナル作品。『ファイト・クラブ』(1999年)や『ゴーン・ガール』(2014年)などのデヴィッド・フィンチャー監督がゲイリー・オールドマンを主演に迎え、映画史に燦然と輝く不朽の名作『市民ケーン』(1941年)の脚本執筆の舞台裏を描いている。
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ドラマ部門作品賞、同部門主演男優賞、助演女優賞(アマンダ・サイフレッド)、監督賞、作曲賞(トレント・レズナー、アティカス・ロス)と並んで、脚本賞にノミネートされているジャック・フィンチャーは監督の父親。ジャーナリストだった父が遺した脚本を、息子が映画化したという本作の舞台裏もドラマティックだ。
不朽の名作『市民ケーン』は共同脚本、実際に書いたのは1人だけ?
“マンク”とは、『市民ケーン』の脚本を務めたハーマン・J・マンキウィッツの愛称。『イヴの総て』(1950年)や『去年の夏 突然に』(1959年)、『探偵スルース』(1972年)などを手がけたジョゼフ・L・マンキウィッツ監督の兄で、1930年代からハリウッドで脚本家として活躍してきた。オールドマンが演じるマンクは1940年にはアルコールに溺れ、交通事故で足を骨折する不運に見舞われていた。そこに若き天才演劇人オーソン・ウェルズが監督・主演する『市民ケーン』の脚本執筆の依頼が舞い込む。
実は『市民ケーン』の脚本については諸説があり、クレジットはウェルズとマンキウィッツの共同脚本になっているが、実際はマンキウィッツ1人の手によるものという説もある。本作はその説を選択し、断酒と執筆のために人里離れた貸別荘にカンヅメ状態にされたマンクの執筆作業と、1930年代に『市民ケーン』の着想となった体験をする過去が交互に描かれる。
1934年の州知事選挙と2020年の大統領選挙が重なる
『市民ケーン』のストーリーが、時の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの半生をモデルにしていることは明白。若くして成功を収めた権力者がその威光で若い妻をスター女優にしようとするエピソードなど、ハーストと愛人で女優のマリオン・デイヴィスについて、匂わせどころではない共通点を盛り込んで、主人公チャールズ・フォスター・ケーンとその妻スーザンとして描いて物議を醸した。
マンクがこの題材に踏み込んだきっかけとなるのが、1934年のカリフォルニア州知事選挙だ。映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』の原作者で、小説家アプトン・シンクレアが民主党候補として出馬し、反対勢力だったハーストたちによるネガティブ・キャンペーンとその顛末も詳細に描かれる。昨年、アメリカで大統領選をめぐって情報戦が繰り広げられた現実が重なり、むしろこれこそがフィンチャー親子が世に問いたかったことなのかも、という気もしてくる。
脚本家は誰なのか、フィンチャー監督が出した答えは?
モノクロ映像は『市民ケーン』の撮影を手がけたグレッグ・トーランドを強く意識したものだが、フィルムではなく、デジタル撮影。にもかかわらず、往年の映画を思わせるフィルム交換マークをわざわざ付けたり、音響もモノラルという凝った作りで、映画館で古い名作を鑑賞しているような感覚をもたらす。
現実でもマンクとウェルズは、どちらが先にハーストを題材にすることを発案したかをめぐって論争となり、脚本クレジットが連名表記に落ち着くまでに揉めに揉めた経緯がある。本作は、マンクこそが真の作者であるというスタンスだ。
昨今、フィクション作品では史実を踏まえたうえで、そこから飛躍する展開が多い。先日最終回を迎えたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』も然り、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などが好例だろう。
マンクの過去と現在の人間関係を通して、古き悪しきハリウッドの真の姿に迫る物語も、事実とフィクションを巧みに混在させている。
実在した人物のみならず、架空のキャラクターにも重要な役割を担わせた本作の内容を、ハリウッドの歴史として鵜呑みにすると、それこそ “もう一つの事実(Alternative fact)”発生になりかねない。当時のハリウッドの人間関係を軽く予習し、U-NEXTなどで配信されている『市民ケーン』を合わせて見ることをおすすめしたい。(文:冨永由紀/映画ライター)
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Netflix映画『Mank/マンク』
2020年12月4日より独占配信中
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