第93回アカデミー賞まもなく発表、今回は配信のみの作品も候補対象に

【週末シネマ】日本時間26日(現地時間)に発表される第93回アカデミー賞。今年は、昨年から続くパンデミックの影響で、今回限りの例外として配信公開のみの作品も候補の対象となった。その結果、Netflixは35ノミネーション、Amazonは12ノミネーション、Apple TV+とディズニープラスも初のノミネーションを獲得した。

NetflixやAmazon をはじめ、各配信サービスで現在視聴できる主な候補作を紹介する。

デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』は10部門にノミネート!

まずは最多10部門にノミネートされている『Mank/マンク』(Netflix)。デヴィッド・フィンチャー監督が、ジャーナリストだった父の遺した脚本を映画化したもので、1940年の名作映画『市民ケーン』の脚本執筆過程と1930年代のハリウッドの内幕を合わせたストーリーだ。

作品賞、監督賞、主人公で脚本家のハーマン・J・マンキーウィッツ(通称マンク)を演じたゲイリー・オールドマンが主演男優賞、アマンダ・サイフリッド(セイフライド)が助演女優賞でノミネートされ、その他に撮影賞、作曲賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞で候補になっている。

特に『市民ケーン』の技法を再現したモノクロ撮影と美術の評価が高く、全米撮影監督協会賞、美術組合賞などを受賞している。

・鬼才フィンチャーが名作の脚本をめぐる舞台裏を描いた『Mank/マンク』

マンク

Netflix映画『Mank/マンク』

『シカゴ7裁判』『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』も6部門

次いで6部門でノミネートされたのは『シカゴ7裁判』(Netflix)と『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』(Amazon)。

1968年のベトナム戦争反対デモをめぐる裁判の実話を映画化した『シカゴ7裁判』は作品賞の他に、活動家を演じたサシャ・バロン・コーエンが助演男優賞、脚本家でもあるアーロン・ソーキン監督が脚本賞でノミネートされ、撮影賞、編集賞、主題歌賞で候補になっている。

・Netflixの勢いが加速するか? 全米映画俳優組合賞でオリジナル作品『シカゴ7裁判』が最高賞受賞!

シカゴ7裁判

Netflix映画『シカゴ7裁判』

突然、重度の難聴になったロックバンドのドラマーが、聴覚を失っていく現実と向き合う姿を描いた『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』は作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞、録音賞。リズ・アーメッドはイスラム教徒の俳優として初の主演男優賞候補者となった。パキスタン系イギリス人のアーメッドは、『ミナリ』のスティーヴン・ユァンと並び、同賞候補となったのはアジア系として初の快挙だ。主人公が身を寄せる、ろう者コミュニティのリーダーを演じたポール・レイシーが助演男優賞候補、監督のダリウス・マーダーは兄弟のアブラハムと脚本賞にノミネートされた。

・突然に聴覚を失っていくドラマーの恐怖と苦悩、再生を描く話題作

サウンド・オブ・メタル

『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』(Amazon Prime Videoにて独占配信) Courtesy of Amazon Studios

チャドウィック・ボーズマンの遺作も主演男優賞など5部門で候補に

5部門でノミネートされたのは、1920年代に実在したブルースのシンガー、マ・レイニーを描いた『マ・レイニーのブラックボトム』(Netflix)。マ・レイニーに反発するトランペッターを演じるチャドウィック・ボーズマンの遺作であり、前哨戦でも主演男優賞の受賞が続いている。マ・レイニーを演じたヴィオラ・デイヴィスも主演女優賞候補、メイクアップ&ヘアスタイリングしょう、美術賞、衣装デザイン賞にノミネートされている。

オスカー女優のレジーナ・キングが監督を務めた『あの夜、マイアミで』(Amazon)では、伝説のR&Bシンガー、サム・クックを演じたレスリー・オドム・ジュニアが助演男優賞にノミネートされ、脚色賞、歌曲賞でも候補になった。

『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(Netflix)では、逆境を抜け出したエリート大学生が自身のルーツを受け入れていく物語で、主人公の支えとなった祖母を怪演したグレン・クローズが助演女優賞候補に。メイクアップ&ヘアスタイリング賞でも候補。

サシャ・バロン・コーエンが架空のカザフスタン人ジャーナリスト、ボラットとして大暴れするモキュメンタリー『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』(Amazon)はマリア・バカローヴァが助演女優賞のほか、バロン・コーエンは脚色賞候補として名を連ねている。

『続・ボラット~』に本人役で出演しているトム・ハンクスは、主演2作も候補入り。『この茫漠たる荒野で』(Netflix)は撮影賞(ダリウス・ウォルスキー)と作曲賞(ジェームズ・ニュートン・ハワード)、音響賞の3部門、『グレイハウンド』(Apple)は音響賞で、Apple作品として初のオスカー・ノミネート獲得となった。

『私というパズル』(Netflix)はヴァネッサ・カービーが主演女優賞にノミネートされた。現代の英国王室を描くNetflixオリジナル「ザ・クラウン」のシーズン1、2でエリザベス女王の妹・マーガレット王女を演じたカービーが、死産の女性を演じ、昨年9月のヴェネチア国際映画祭女優賞を受賞している。

長編アニメーション部門では『ウルフウォーカー』がApple TV+、『ソウルフル・ワールド』はディズニープラスで配信中。

長編ドキュメンタリー部門は配信作品の傑作揃い!

また、劇映画の部門より以前からNetflixが受賞を重ねてきた長編ドキュメンタリー部門では、今年も配信作品が強い。

バラク&ミシェル・オバマ夫妻が立ち上げた製作会社が手がけた『ハンディキャップ・キャンプ:障がい者運動の夜明け』(Netflix)、タコと人間の驚くべき深い交流を追った『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』(Netflix)、そして銀行強盗の罪で服役中の夫の釈放を求めて戦う6児の母の活動に迫る『タイム』(Amazon)。いずれも傑作揃いで、この3本は候補作5本の中で、本命中の本命だ。

短編ドキュメンタリー部門の『ラターシャに捧ぐ~記憶で綴る15年の生涯~』(Netflix)は1992年のロサンゼルス民衆蜂起のきっかけの1つとなった射殺事件の被害者だった少女の思い出をたどる内容。フィクションの短編映画部門の『隔たる世界の2人』(Netflix)はタイムループに閉じ込められた黒人男性が帰宅中に警官と揉めて殺される恐怖を何度も繰り返すという内容。どちらもBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動が起きた今、タイムリーな内容だ。

授賞式は日本時間の26日午前中から始まる。パンデミックの影響で、規模を縮小しての開催だが、今回紹介した配信作品がどれだけ健闘するか、結果が楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

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