作家・吉本ばななの短編小説「ムーンライト・シャドウ」が、主演に小松菜奈、監督に“マレーシアの鬼才”エドモンド・ヨウを迎えて実写映画化されることが分かった。小松は初の長編映画単独主演となる。
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吉本ばななの代表作「キッチン」の短編小説を実写映画化
吉本は、1989年刊行の「キッチン」が大ヒットを博し、「TUGUMI」(1989年「山本周五郎賞」受賞)と「キッチン」の2作で同年の年間ベストセラーの1位と2位を独占。平成最初のベストセラー作家となった。「キッチン」は世界30ヵ国以上で翻訳され、発売から30年以上経った今でも世界中の人々に愛されている。美しく詩的な文章とその独特な世界観で、日本のみならず海外のファンも多い。
「キッチン」に収録されている短編小説「ムーンライト・シャドウ」は、1987年に吉本ばななが大学の卒業制作として発表し、「日本大学芸術学部長賞」を受賞。翌1988年には「泉鏡花文学賞」も受賞した作品だ。
吉本自身も「初めて他人に見せることを前提に書いた、思い出深い小説」と語り、ファンの中では初期の名作との呼び声も高い。そして今回、主演に小松、監督には2017年の「東京国際映画祭」での『アケラットーロヒンギャの祈り』で東南アジア人初となる「最優秀監督賞」受賞の栄誉に輝いたエドモンド監督を迎えて映画化され、今秋公開される。
小松菜奈、突然恋人を失う難役を熱演「私の新しい扉を開けていただいた」
第44回日本アカデミー賞では、映画『糸』(20年)で優秀主演女優賞を受賞するなど人気と実力を兼ね備える小松。本作について「『キッチン』はもちろん知っていましたが、今回『ムーンライト・シャドウ』のお話をいただいて、改めて原作を読むきっかけとなりました。さっきまで目の前にいた人が急にいなくなってしまう。でもまわりの日常は何も変わらない。どれだけ自分や誰かを責めても二度と戻ることができない…その時から時は止まってしまう。走り出したり、止まったり、ぽつぽつと歩く。その繰り返しの日々の中で登場人物が何かを抱き締めながらも、哀しみ・喪失感・絶望・孤独…それだけじゃない、乗り越えようとする人間のエネルギーみたいなものを、吉本ばななさんの生み出す一つひとつの魅力的な言葉から感じました。いつか人生で経験する“死”、このような形で再び本を開くきっかけとなってよかったと思います」と話す。
小松は今回、突然訪れる恋人の死をなかなか受け入れることができない主人公・さつきを演じた。「さつきは普通の子だからこそ難しい部分もありましたが、模索していく中で、さつきと同じ感情になった瞬間は嘘がないような気がしました。撮影中はエドモンド監督の描きたいシーンについて、みんなが監督を信頼しているからこそ、私たち役者の感情を大事にしていただき、スタッフさんのアイデアや意見も取り入れて、最終的に一つになるという現場でした。今回、監督とご一緒できて、また一つ私の新しい扉を開けていただいたと思います。自分でもどんな風に完成しているのか未知の世界で、こんなに想像がつかない作品は初めてかもしれません。だからこそ作品の完成がとても楽しみです」と述べた。
エドモンド・ヨウ監督「困難だったコロナ禍での撮影…しかし私にはそのすべてが幸福な時でした」
今回メガホンを取ったエドモンド監督は「最初に原作を読んだのは2006年です。シンプルな構成と短い物語であるにも関わらず、『ムーンライト・シャドウ』を読んだ記憶は10年以上経った今でも色褪せず、鮮明に残っています。当時、私は20代初めで、登場人物や、作者である吉本さんが執筆された年齢と同世代でした。その時に揺さぶられた感情はとても力強いものでした。いわば、ちょうどいい年齢の時にこの本を読んだのです」と述懐。
「その2年後、大好きな日本映画や日本文学の影響で、早稲田大学で修士号を専攻し、その頃に撮った短編は、ほとんど日本の偉大な小説作品から影響を受けて作ったものです。今回『ムーンライト・シャドウ』を映画化するお話を頂いた時、私の旅が原点に戻ったような気持ちでした。吉本さんの文章の普遍性やエモーションをスクリーンに投影する素晴らしい機会を嬉しく思いました」と喜びをコメントしている。
主演の小松についても言及。「『ムーンライト・シャドウ』のさつきは、その後、吉本さんが生み出した、多くの登場人物の原型だったのではないかと思っています。そのほとんどのキャラクターにさつきの姿を見出すことができます。このさつきを演じるのは、小松菜奈さんしか考えられませんでした。彼女なしでは『ムーンライト・シャドウ』の映画化は不可能でした。演技をするのではなく、小松さんはさつきになったのです。監督の私にとっては、このようなコラボレーションは本当に幸福で豊かな体験でした。シーンの一つ、ショットの一つを撮るたびに、期待に胸を膨らませて小松さんのお芝居を見守っていました。それは非常に有機的なプロセスでした。彼女はキャラクターについての新たな秘密を打ち明け、あたかもその魂が垣間見えるように、一瞬にして喜びと悲しみの閃光を放つのです」と話す。
さらに、コロナ禍の撮影を振り返って「現在のような世界的規模のパンデミックのさなかに、この作品を送り届けることができて本当に光栄です。コロナ禍での撮影は非常に困難でしたが、スタッフやキャスト、私の“ムーンライトファミリー”全員が、この映画に魂とハートを注いでくれました。このような困難な時期にあっても、愛する映画のためにやり遂げたことは驚くべきことです。息もつく間もありませんでしたが、私にはそのすべてが幸福な時でした」とキャストやスタッフに感謝の気持ちを表した。
吉本ばなな「心の中に食い込んでくるような映画になる」
原作の吉本は、主演の小松について「『ムーンライト・シャドウ』は、私が小松さんと同じ24歳くらいに、初めて他人に見せることを前提に書いた思い出深い小説です。主人公のさつきを小松さんが演じると聞いて、その時の気持ちに作品を生まれ変わらせてくれるんじゃないかと、そんな気がしました。小松さんは、ものすごく旬でパワフルな方という印象でしたが、このお話の中にある“暗さ”のようなものも彼女の中に感じられるので、すごくピッタリだと思いました」と称賛。
また「この小説の大切なところは、“人が死んでしまう”ということ。若くて美しくて順風満帆で、何も陰りのなかった人が、突然“別れ”というものに晒された時にどうにもしようがない期間があり、地に足がつかない気持ちを時間が立ち直らせてくれる。生身の人間が演じることで映像によってどう表現されるのか、自分が描いていなかった部分がふと出てくることがいっぱいありそうな気がしていて、私も楽しみにしています。もしかしたらこの小説は全部妄想なのかもしれない。小説だとちょっと浮いている感じを行間で表すしかありませんが、映像になると目に見えて現れる。でも現実ではない。そういう表現を、エドモンド監督は得意なんだと思います。今、特にこの時代だからこそ、急にびっくりするようなことが起こるというのは、誰にでも起こり得ると思います。美しい映像を味わう気分で見ていたとしても、心の中に何かがだんだん食い込んでくるような映画になる予感がしています」と若き日の自分を投影させるように語った。
映画『ムーンライト・シャドウ』は2021年秋より全国公開。
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