【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第22回】
GW初日に自転車を買った。
生まれてはじめて自分のお金で自転車を買った。
こんな世の中だから電車に乗る機会を減らすのにいいかもしれないと軽い気持だったが、これが実にいい。
自転車ってのはこんなに快適でこんなに世界が広がるんだ。
普段は通らない路地なんかもスイスイ行けるし、遠くもない近くもない、いちばんいい塩梅の距離まで出掛けられる。
高田馬場にある早稲田松竹まで自転車で出掛けた。
よく通っていた映画館は休みだった。
はやく再開できますようにと願って、いつもの中華屋さんでいつものレバニラ定食を食べていつもの喫茶マロンでいつものアイスコーヒーを飲む。
先月見たジム・ジャームッシュの『パターソン』のようだなと思いながら、店自慢のレトロな丸い窓枠から駅前の風景を眺めた。
出歩いている人も少なかったが、このくらいの数のほうが街も健全なような気がした。
『パターソン』のDVDは普段落語会のチラシを描いてくれているイラストレーターさんがプレゼントしてくれたもの。
色んなご縁がありがたいとしみじみ思う。
パターソンのように普段の暮らしの美しさの尊さを噛みしめる。
・魔法のような時間が堪能できる、かけがえのない物語『パターソン』
アイスコーヒーのおかわりを待っていると小笑さんから連絡が。
落語芸術協会の新真打である三遊亭小笑師匠とはもう30年の付き合い。
鹿児島の同じ中学のクラスメイトで同じ部活。
ずっとなかよくしてくれる友人。
どうでもいいLINEだったので無視してアイスコーヒーを飲む。
ふと思い出した。
中学の卒業文集に書いていた小笑師匠の将来の夢がスパイだったことを。
それはダブルピースしている写真の横に書いてあった。
落語家は仮の姿で、本当はスパイなのかもしれない。
落語界に機密情報などないのに。
師匠方の着物の畳み方とかお茶の好みの熱さを握ってるのかもしれない。
以前、スパイ映画の傑作『裏切りのサーカス』を薦めたことがある。
2度見なければわからないという難解な映画。
開始10分で「わかった!」と言っていた。
そんな彼の真打昇進披露目興行が6月11日新宿末廣亭から始まります。
ぜひお越しください。
店を出ると自転車が盗まれていました。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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