マツコらのブレークで「LGBT」の生きづらさは消えたのか…?

#LBGT#トランスジェンダー#マツコ・デラックス

男性女性

オネエ系タレントの変人扱いは解消されたかに見えるが

マツコ・デラックスやお笑いコンビ・メイプル超合金のカズレーザー、ダンサーの杉森茜と同性結婚式を挙げた元グラビアアイドルの一之瀬文香(事実婚状態だったが、後に破局)など、LGBTであることをカミングアウトしている芸能人が売れっ子となった。

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海外でも、エイズ問題を描いたテレビドラマ『ノーマル・ハート』(15年)に主演した俳優のマット・ボマー、俳優ジョニー・デップと20152月に結婚したものの離婚した女優アンバー・ハードなども、自らがLGBTであることを隠さず、LBGTの人権活動も積極的に行っている。

そんな中、527日、東京高裁で注目の判決が言い渡された。

女性として人生を送りながらも戸籍上は男性の50代経産省職員が、女子トイレの利用を不当に制限されたとして、国に改善などを求めた。国側は、金沢大などが公表した「トランスジェンダーのトイレ利用に関し、トランスジェンダーではない女性の約35%が女性トイレを使われることに抵抗がある」と回答した研究結果を証拠として提出。トランスジェンダーの女子トイレ利用には周囲の抵抗があると主張した。裁判所はこれを受け、原告側の訴えを棄却し、トランスジェンダーによる女子トイレ使用の制限を認める判決を下した。

トンデモ発言が飛び出る国会議員の古い価値観

他方、多様性を受け入れる寛容な社会の実現を目的とした「LGBT理解増進法案」をめぐる自民党の会合で、一度は与野党合意をみた(基本理念に「差別は許されない」と盛り込む)修正案に関して、簗和生衆院議員が「種の保存に反する」という趣旨を発言した。

山谷えり子参院議員も「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなどでは女子陸上競技に参加してしまってメダルを取るとか、バカげたことが起きている」などと極論を繰り広げるなど、反対意見が続出。今国会での成立は難しいとして、528日、法案提出を見送っている。

ジェンダーレスで先を行く欧州での現状は

世界経済フォーラムが男女間の格差を測る「ジェンダーギャップ指数」を20213月に発表し、日本は156か国中120位という先進国の中で最低レベルだ。アジアの中でも韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果であるのもうなずけるが、ジェンダーレス先進国のイメージのあるEU諸国の現状はどうなのか。

在スペイン34年でマドリード在住のS.N.J.日西文化協会会長・古村周三氏はこう語る。

「スペインではこんな現象が起きています。スペイン語には名詞や形容詞に男性形、女性形の区別がありますが、先ごろ、女性のイレネ・モンテロ平等大臣が、男性形、女性形のどちらでもないムチャクチャな造語を用いて演説し、紛糾しました。また言語の問題だけでなく、歩行者用の信号機の人の姿が男性というのは不平等とのことで、スカート姿のデザインに変わり、その後、男女が2人で歩いている姿が出てきたかと思えば、今度はLGBTが無視されていると言い出し、現在はスカート姿の2人が一緒に歩いているようなデザインが目につきます。その度に税金を使って信号機を作り直していますが、『これぞ平等であり民主主義』だと、政治家の人気取りに利用している節はあります」

ちなみにスペインは、前出の「ジェンダーギャップ指数」で世界14位。LGBT理解について国会で議論されているスペインに対し、法案の党内調整だけで紛糾している日本は周回遅れの感が否めない。

テレビではマツコ・デラックスらLBGTが市民権を獲得し、映画では俳優・草なぎ剛が『ミッドナイトスワン』(20年)でトランスジェンダーの美しい人間性を示すなど世のLGBT理解に貢献している。しかし現実はもっとセンシティブで複雑だ。一般市民レベルでのジェンダーギャップがなくなる未来は、まだまだ先になりそうだ。

(文:寺島武志/フリーライター・編集者)