菊地凛子がブレイクするきっかけとなった『バベル』や、トミー・リー・ジョーンズが監督した『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』など、数多くの名作の脚本を手がけてきたメキシコ人脚本家のギジェルモ・アリアガ。時間軸が複雑に入り組み、いくつもの空間が交差する中で、人間の本質を描くことを得意とする彼が初監督したのが『あの日、欲望の大地で』だ。母と娘、そして孫の3世代に渡る女性の愛と希望を綴った作品で、シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーという2人のオスカー女優が母娘を演じ、人生についての深い感慨を呼び起こす。
これまで培ったキャリアゆえか、初監督作とは思えない手腕を見せたアリアガ監督が、映画について、そして名女優と仕事をした喜びについて語った。
──これまで脚本家として活躍してきたわけですが、他の監督にここは負けない、という部分はありますか?
ギジェルモ・アリアガ監督(以下、監督):一言でみんなの理解を得て、想像力を喚起することができる点です。今まで会った監督の中には、俳優とコミュニケーションが取れない人もいましたが、私は違うと思います。それが、脚本家でもあるメリットかな。
また、多くの監督が、技術面に気を取られるあまりに、カメラの前に立っているのが人間だということを忘れがちです。だから、映像美に偏ってしまう。この作品を撮るにあたり、私はそういうことはやめようと思っていました。
──女優たちの演技が素晴らしい作品ですが、シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガー、そしてセロン扮するヒロインの10代の頃を演じたジェニファー・ローレンスの3人についての考えを聞かせてください。また、セロンは、脚本を心から気に入り、プロデューサーまで買って出たということですが、その感想も教えてください。
監督:シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーという2人のオスカー女優が、私の前で演技をしてくれる場面を見るだけで、幸せな気分になりました。セロンはクリエイティブ面のプロデューサーを兼務してくれて、キム・ベイシンガーを選んだのも彼女です。とても知的でユーモアがある女性で、手作りの差し入れをスタッフにも配るなどの気配りを見せてくれました。
ジェニファー・ローレンスは撮影時に17歳で、これまで演技の経験もなかったのですが、オーディションでの演技は、助手が涙を浮かべるほどでした。新たなメリル・ストリープが出現したと感じました。
──映画を見て、なぜ女性の気持ちがこんなに分かるのかと思ったのですが、なぜなのでしょうか?
監督:私が、映画作りで一番重要なのは俳優だと思っているからではないでしょうか。友だちの監督には、「私の美しい映像を汚すから、俳優なんて大嫌いだ」という人もいるのですが(笑)、私は俳優第一主義でいきたいと思っています。そして、常に「人生」を描きたいと思い、中でも女性の世界を大切にしたいと思っています。なぜなら、女性は生と死の境界を知っていると思うから。
──今回、初めてメガホンをとったわけですが、前から監督をしてみたいと思っていたのですか?
監督:9歳の頃から監督したいと思い、ずっとチャンスをうかがっていました(笑)。
私には映画に関する技術はありません。でも、技術面を補うにあまりあるものが見つかれば、できると思っていました。今回監督をしてみて思ったのは、技術的な知識のなさは障害にならないということです。素晴らしいスタッフがいれば、みんな教えてくれるからです。
知り合いのプロデューサーにこう言われました。「映画を撮るときは、脚本と俳優だけに集中しろ。それ以外のことはみんなが助けてくれるから」と。撮影中に私がしたことは、カメラマンを振り返り、オスカーをとったカメラマンなのですが(笑)、「こういう画がほしい」と言うだけでした。
──過去の作品も含めて、監督の脚本は、場所と時間が交差しています。その手法は、自然に生み出されたのでしょうか?
監督:日常生活でみんなが語るストーリーは、時空間がバラバラです。どんな文化を持っていても、話をするときに時系列に沿って語ったりはしません。だから映画でも、自分たちが日々、様々な話を物語るのと同じように描きたいと思ったんです。
また、多動性障害の問題から、私はあまり集中ができないんです。だから、考えるままに書いています。
──今、世界は様々な危機に直面していますが、愛の残酷さも描いたこの作品は、とても時代にマッチしていると思いますが。
監督:イタリアでこの映画を上映した時、最前列にいた女性が「これはオバマの映画だ」と言いました。この作品の核となるのは「愛」。一番重要なのは愛なのです。そして希望。愛が与えてくれる希望ですね。アメリカ人が言うところの「フィール・グッド・ムービー」、つまり気分が良くなる、希望のある映画だと思っています。
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