映画関係者が今、熱い視線を投げかけているのが3D映画だ。“元年”といわれる今年は、夏に『モンスターVSエイリアン』『アイス・エイジ3』『ボルト』と、ハリウッドのメジャースタジオが手がけた3本の3Dアニメ映画が公開され、話題を呼んだ。
本命登場と目されているのが、この秋冬だ。11月14日公開のロバート・ゼメキス監督作『Disney’s クリスマス・キャロル』を皮切りに、12月5日には全米で大ヒット中のアニメ映画『カールじいさんの空飛ぶ家』。そして12月18日には、『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督の12年ぶりの新作として注目を集める『アバター』も公開されるなど、3D映画の時代が本格到来しそうな気配だ。
そうした中、日本でも3D映画に対応する動きが出始めた。それが、『呪怨』の清水崇監督が手がける長編実写3D映画『戦慄迷宮3D』だ。今回は、この映画のプロデューサーであるアスミック・エースの谷島正之氏と、昨年、初のデジタル3D映画『センター・オブ・ジ・アース』を公開し、スマッシュヒットに導いたギャガのマーケティング部部長・松下剛氏に、3D映画の現状と未来について語ってもらった。
3Dで観客がお化け屋敷にいるような効果狙う
──松下さんのいるギャガは、『ファイナル・デッドサーキット 3D(以下、ファイナル〜)』を配給・宣伝しています。奇しくも、この『ファイナル〜』と『戦慄迷宮3D(以下、戦慄迷宮)』という、共にホラー系で3Dでもある映画2本が10月17日に同日初日を迎えます。事前に相談して決めたのでしょうか?
松下:それは、ないですね(笑)。
谷島:偶然です。平たくいうと、お互いの事情があって、こうなった。
──同じタイプの映画が同日公開となるのは、損得でいうと、どちらでしょう?
松下:両方あるんじゃないでしょうか。
谷島:僕は製作者として、営業部に「絶対止めてくれ」って言ったんです。「ギャガは侮れない」と。
松下:(笑)
谷島:ギャガって最初は油断させるんです。この程度の宣伝で大丈夫かって。ところが、最後の踏み込みが早く、いつも出し抜かれちゃう。
松下:そんなことないですけどね。
谷島:いや、これは本心です。ただ今回の場合、『ファイナル〜』はR指定(R15)で、『戦慄迷宮』は一般映画(R指定なし)と決まっていたので、棲み分けはできるだろうと。
松下:僕は正直、「かぶった」と思いました。でも、うちは昨年10月25日に、長編実写映画としては初の全編フルデジタル3D映画である『センター・オブ・ジ・アース(以下、センター〜)』を公開している。その1年後というタイミングなので、どんなスケジュールで初日を迎えたかが頭に入っている分、やりやすくはありました。
──では、それぞれの映画についてお聞かせください。谷島さんは『戦慄迷宮』のプロデューサーですが、この映画を製作した狙いはどこにあるのでしょう? そもそも、3Dありきの企画でしたか?
谷島:いえ違います。最初は遊園地ですね。『ザ・リング2』を製作していた頃なので、2005年のことです。富士急ハイランドに実際にある「戦慄迷宮」に行ってみるとわかるのですが、ものすごく巨大なお化け屋敷なんです。でも僕には、数億かけた素晴らしい映画のセットに思えた。そこで、このお化け屋敷を舞台に、リアルな恐怖が作り出せないかと。それも、殺人鬼や霊が出てくるとかではなく、真逆のアプローチで。その瞬間から、頭の中でいろいろなものができあがっていった。
──それが、どういう経緯で3Dへと?
谷島:偶然に偶然が重なったというか。昨年の春先に、この企画を真剣にやろうと組み立て始めたんです。そしたら、ドリームワークス・アニメーションのCEOであるジェフリー・カッツェンバーグが3月に来日し、「今後製作するアニメは全部3Dになる」と語った。その後、全米の劇場では、どんどん3Dの上映設備が導入されていくようになる。コンテンツとインフラ、3D映画に必要なこの2つが整備されれば、確実に定着するだろうと。その実感を得たのが昨年の9月〜10月頃。そこで3Dにしようと考え始め、どうせなら先陣を切ろうと考えたわけです。
──その段階でプロット(あらすじ)はできていた?
谷島:できてました。これも今思えば偶然なんですが、3Dの話がまったくなかった時点から、先ほどもお話ししたようにお化け屋敷が舞台になっていた。それを3Dにするということは、観客がお化け屋敷にいるような効果を狙えると思ったんです。
──続いて松下さん、『ファイナル〜』について見どころを教えてください。
松下:ギャガにとってこの映画は、2000年から配給し続けている『ファイナル・デスティネーション』シリーズの第4弾に当たる作品なんです。このシリーズの優れているところは脚本で、普通の映画とは正反対のベクトルで物語が進んで行きます。どういうことかというと、最初に事件が起こって、大勢が死ぬ中、危険を察知した何人かが生き残る。でも、彼らはもともと死ぬ運命だったわけで、それゆえに1人ずつ運命に殺されていく。これと、まったく同じフォーマットで4本が作られ、どれも全米1位を獲得した。そんな人気シリーズの最新作が、3Dになってパワーアップしたのが、この作品なんです。
──内容に自信がある?
松下:そうですね、でなければ4作品も作られないでしょう。先ほども触れましたが、僕は1年前に『センター〜』の宣伝もしていて、あの映画は110スクリーンくらいの公開でした。当時はまだ、3D用のスクリーン数が全国で50ちょっとだったので、110スクリーンのうち、3Dと2D(通常の映画)の上映が半々くらいでした。でも、最終的な興行収入の内訳は3Dの7.2億円に対し、2Dは1億円くらい。3Dが2Dの7倍を売り上げたわけです。そういう実績もあるので、今回、洋画が厳しいと言われる中で『ファイナル〜』をヒットさせることは、“ギャガは3Dに強い”と思われるための至上命題でもあります。
実はこれまで、このシリーズの興収は最高で3億円くらいでした。今回は、それを上回りたいと思っています。『ファイナル〜』の3Dでの上映スクリーン数は約100と、『センター〜』のほぼ倍。上映も、基本的に3Dのみなので、お客さんもきっと、今まで以上に、3Dを楽しもうという発想で足を運んでくれると思っています。
2009年末には250スクリーンが3Dに対応
ここで、3D映画の普及のポイントについて整理しておこう。両氏の話にも出たように、鍵を握るのが「設備」と「コンテンツ」の充実だ。コンテンツは冒頭にも述べたとおり、すでにラインナップが充実。来年以降も、ティム・バートン監督とジョニー・デップがコンビを組んだ『アリス・イン・ワンダーランド』を筆頭に、3D作品が目白押しだ。だが、どんなにコンテンツが増えても、それを見られる「設備」、すなわちスクリーン数が増えていかなければはじまらない。昨年『センター〜』が公開された時点では55スクリーンだったが……。
──『ファイナル〜』は約100スクリーンでの公開だそうですが、『戦慄迷宮』は?
谷島:90弱くらいですね。『戦慄迷宮』も3D上映のみで、2Dでの上映は一切行いません。
松下:うちは、試写会用に取ってきたプリントがあるので、2Dでも回すかも知れません。やはりまだ、3Dで公開できない地域があって、そうした地域からも「このシリーズは、ぜひ上映したい」と仰ってくれる劇場があるためです。
──両作品が公開となる10月17日時点で、3D上映に対応したスクリーン数は幾つくらいになるのでしょう?
谷島:180くらいだと思います。
松下:ちょうど、『ファイナル〜』と『戦慄迷宮』の上映スクリーン数を足したくらい。この時期、全国の3D用スクリーンでは、2作品のどちらかが上映されていると思います。
──『アバター』が上映される年末には、どれくらいまでスクリーン数が増えそうでしょうか?
谷島:『アバター』の頃には250くらいに増えていると予想されます。
松下:その後は大きく増えず、最終的には300スクリーンくらいに落ち着くのではないかと。とりあえず、国内の全シネコンに1スクリーンは常設されるようなイメージですね。シネコンの数が、現在、300強あるので。
──スクリーン数の増加に伴い、3D映画の勢いも加速する?
谷島:1つ計算外だったのが、この夏に3D映画の大ブームが起こらなかったこと。『モンスターVSエイリアン』『アイス・エイジ3』『ボルト』とハリウッドの大作アニメが次々と公開されることからブームが起こると期待されていましたが、そうはならなかった。理由の1つは、配給各社が3Dとして大々的に売らなかったから。背景には、これらの映画の3分の2が2Dでの上映だったこともあります。3D上映はせいぜい3分の1程度。それゆえに、劇場サイドから「3Dで売るな」という圧力がかかってしまったのではないかと。
そうした中、『戦慄迷宮』は日本で初めて全スクリーン3Dで上映される映画になります。この映画のように3Dに特化した作品が増え、ヒットしていけば、流れは大きく変わっていくと思います。
──3D映画の普及が進まないのは、配給会社にも問題があるのではないでしょうか。3D映画を配給しているのに、試写室は3Dに対応していないなど、3D映画に対する本気度が伝わってこない。
松下:むしろ、3Dを導入したくても、できないというのが現状です。1000万円単位の設備投資が必要なだけでなく、スペースの問題も大きい。3Dの映写機は場所を取るので、常設するとなると、従来の映写機(2D用のフィルム映写機)を置いておくスペースがなくなってしまうんです。
ギャガは最近、本社を移転したのですが、引っ越し前まで、3Dに対応した試写室を備えていました。通常の試写室では、映写のためには2台の映写機が必要なんですが、3Dに対応するために、その間にデジタル映写機を入れる形で導入したんです。ただ、デジタル映写機は大きく場所を取るため、通常の映写機を使う際の入れ替えも大変で。新しく試写室を作るタイミングで3Dを導入するなら、そんなに難しくないのですが。
谷島:僕は、最初は他力本願でもいいと思っているんです。『戦慄迷宮』では、イマジカの試写室を借りてマスコミ用の試写を回しました。今後、3D映画の数が増え、お金になるとなれば、必然的に3Dを上映できる試写室も増えていくと思います。うちも、『戦慄迷宮』が当たって多大な利益が出れば、すぐにでも対応しますし。
(テキスト:安部偲)
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