話題の3D映画だが、実はこれまでに幾度かのブームを経験している。だが、いずれも数年で沈静化。そのため今回も、一過性のブームで終わると見る向きもある。一方で、映像の新しい時代の幕開けと考える人も多い。その根拠の1つが、今回の3Dが、テクノロジーの進化によってもたらされた“デジタル3D”であること。
ここで簡単にデジタル3Dのしくみを説明しておこう。3Dと聞いて、真っ先に思い浮かべるのは赤青のメガネだろう。そのしくみは、視差と呼ばれる、右眼と左眼の微妙なズレを利用し、それぞれの目に微妙にズレた画(え)を届けることで、立体的に見せるというものだ。
デジタル3Dになっても、基本的な考え方は同じ。そして、もっとも大事なのが、デジタル化されたことで2つの画を届ける映写機が、2台から1台に変わったことだ。通常、3D映画の撮影は、右眼用と左眼用、2つのカメラを同時に回して行うが、上映でも2台の映写機が必要とされていた。2台で投影するため、どうしても映像にブレが生じ、目の疲れや頭痛の要因になる。それがデジタル化され、1台のプロジェクターで右眼用と左眼用の映像を投影できるようになり、不快感が軽減されたのだ。
テーマパークなどで3D映像を見て、目が疲れる、頭が痛くなると感じた方、それはおそらくアナログ方式。デジタル3Dは90分を超える長編でも、苦痛を感じずに見ていられるのだ。しかし、それでも特殊メガネが必要なことには変わりはない。
3Dで観客がお化け屋敷にいるような効果狙う
──過去、3D映画は何度かブームがありましたが、定着せずに終わっています。一方、映画界には、サイレントからトーキー、白黒からカラーと、2度に渡る映像の革命がありました。今回の3Dは新たな革命として定着するのでしょうか? それとも、またブームで終わるのでしょうか?
松下:楽観的と言われれば楽観的ですが、僕は定着すると思います。最初に『センター〜』を見たときに思ったのは、この新しい面白さを、どう生かしたらいいのかってことでした。ハリウッドで巨匠たちが今、続々と3D映画を作っているのも、きっと、どう生かそうかという思いは同じではないかと。彼らにとって3Dはオモチャみたいなもので、みんな、新しいオモチャが欲しいのに、今までなかった。だからこそジェームズ・キャメロンも、12年間、新作を作らなかったのではないかと。
谷島:(笑)
松下:それに、僕にとって3Dは『マトリックス』のワイヤーアクションみたいなものなんです。『マトリックス』以降、多くの映画でワイヤーアクションは使われていますが、ワイヤーアクション自体は、あってもなくても構わない。3D映画も同じで、3Dばかりになるわけでも、なくなるわけでもない。なぜなら、作り手にも3Dで楽しみたいと思っている人たちがいっぱいいるから。そして、彼らが作る映画の2〜3本に1本は、3Dだからこそ面白いという作品になっていくと思うんです。
──2000円くらいという料金の高さも、観客にとっては気になるところです。元々、通常料金の200〜300円増しという設定ですが、実際には普段、映画の日やレディースデイなど、何らかの割引サービスを利用している人が多い。一方で、3D映画には割引サービスが適用されない。そのため、サービスを利用し1000円で見ている人にとっては、2000円は高いと思えてしまう。
谷島:これも話が重複しますが、数が増えれば料金は見直されていきます。仮に見直されず、現状維持なら、それは3Dが映画界に定着しなかったということになる。
松下:料金が高いという話は、僕も『ボルト』や『モンスターVSエイリアン』公開時に劇場さんから聞きました。でも『センタ〜』の時は、あまり耳にしなかったですね。違いは映画を見る目的にあるのではないでしょうか。子どもに見せたくて、家族4人で映画を見るのなら、子どもが3Dじゃなければイヤだと言わない限り、安い方がいいとなる。でも『センタ〜』のように、3Dを楽しむこと自体が目的になっていれば、少々高くても見たいという方もいるでしょう。しかも、大人向けの『ファイナル〜』なら、あの衝撃シーンを映画館で3Dで見たいと思う人も多く、数百円の差はそれほど気にならないはずだ、と。
──3D映画の普及には、当たる作品が大切だとのことですが、具体的にどれくらいの数字が目安となるのでしょう?
谷島:まずは、興収10億円を超える作品が出てくることが大前提です。そういう意味では、『センタ〜』が3Dだけで7億円(2D合わせて8.2億円)という数字を上げたのは驚異的でした。
松下:ワーナー・マイカルのある方が言っていたのは、ワーナー・マイカルだけの数字を見れば、『センタ〜』は興収40億円の大ヒット映画と変わらないということ。それくらいの好成績でした。
谷島:だから、まずは興収10億円。これを超える作品が出てきたら、私たちインディペンデントはもとより、大手映画会社の意識も変わってくると思います。
──3Dの場合、テレビの予告編や、雑誌やWebに載った写真は、決して飛び出すわけではありません。それだけに、3D映画の宣伝も難しそうですが、何か変わった手法が必要なのでしょうか?
谷島:映画を企画するスタート時点から、なぜ、この映画が3Dでなければならないのか、その理由を詰めていかなければならないと思っています。そして大切なのは、2Dの予告編を見たときに、「これが飛び出してくるのか」と想像が膨らむような内容になっていることですね。
──確かに「世界最大のお化け屋敷」としてギネスブックにも認定されている巨大アトラクションが、そのまま3D映像になったと聞くだけでも想像が膨らみます。
松下:たぶん、谷島さんが仰っていることと一緒なんですけど、別の表現をすると、普通の映画とまったく変わらないのではないかと。ここ数年の映画や映画宣伝って、より直接的で、わかりやすくする傾向がある。簡単に想像できない映画は当たらないんですね。だからこそ大事なのは、3Dだろうが、2Dだろうが、面白そうに思えるかどうか。恐怖映画なら怖いかどうか、感動映画なら泣けるかどうか。仮に『ファイナル〜』なら、3Dで見たら怖そうと思ってもらえれば、映画を見に来てくれるだろうし、そう思ってもらえなければ、足を運んでくれないでしょう。
谷島:3Dを見たいだけの観客はほとんどいない。やっぱり、この映画を見たいという気持ちが大切なんです。3Dであることは、イメージをより膨らませ、そうした人たちの背中を押す程度に過ぎないのだと思います。
旧作が3Dでリメイクされ、映画界が活性化
──単に映像が飛び出してくるという意味での3Dなら、テーマパークなどで体験済みの方も多いと思います。そうではなく、長編映画としての3Dの魅力は何でしょう?
谷島:そこが難しいところで。専門家に言わすと、飛び出す効果だけの3D映画は15分しかもたない。それ以上になると、観客が飽きるし、目にも負担がかかってしまう。だから、90分の3D映画を作るとなると、飛び出し効果よりも奥行き感、映像世界に没入していく感じが必要になってくるわけです。つまり、映画の世界に観客が入っていけるような感覚ですね。ただ、それだけでは面白くないので、15分に1回、飛び出してくるダイナミックな演出も入れる。これが長編として、観客に負担をかけずに楽しんでもらえる1つの形ではないでしょうか。
松下:それと同じことを、『センター〜』のエリック・ブレヴィグ監督も言ってました。最初はあまり飛び出さず、徐々に飛び出し率をあげていく。1回、3Dであることを観客に忘れさせてあげないと飽きちゃう。
谷島:だから、最初の30分で決まるんです。そこでストーリーに引き込まないと、クライマックスのアクロバティックな展開に入ってもらえない。
──では、3D映画の普及を後押しするものは何でしょう?
谷島:やっぱり当たりですね。今は、大ヒットしている映画を確認しに行く時代。だからこそ劇場で、3Dってやっぱり面白いと感じてもらい、「この映画、当たっているみたい」と口コミで伝わるようにならないと。そのためにも、『ファイナル〜』と『戦慄迷宮』の2作品を、まず当てないといけない。
──劇場公開が終わった後、DVDとしてリリースすると思いますが、その際、この2作品はどんな形でリリースされます?
松下:『センター〜』のときは2D版のほかに、赤青方式に似た専用メガネをかけると立体的に見えるタイプのDVDも出しました。今回も同じような形になるかと思います。でも、本当の勝負は、きっとこれから。ブルーレイが普及して、過去のタイトルが次々と再リリースされていますが、デジタル3Dをご家庭のテレビで見られる時代になったら、各社ともブルーレイのように、3D版のDVDを再リリースすると思います。
谷島:うちは現状では、2D版しか出さない予定です。1つ気にしているのが『アバター』の動き。この大作がある程度、DVD化に対する指標を示してくれるのではないかと期待しています。
──最後に3Dの登場が及ぼす、派生ビジネスなどへの展望があればお聞きかせください。
谷島:3Dポスターとか、そういう売り込みはいっぱいありますね。階段に貼っていくと、全体的に飛び出すような視覚効果が得られるものとか。
松下:派生ビジネスという意味では、3D自体が、派生ビジネスになっている面もあります。ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』全作を3Dにしようとしていたり。やっぱり見たいですよね、そういう映画。3Dで見たい映画はたくさんあって、それが、そう遠くない未来に、次々と3D映画になると思う。うちも『アース3D』とかを配給しますし。派生ビジネスも含め、やはり、3D自体が映画界活性化の切り札になっていくのではないでしょうか。
(テキスト:安部偲)
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