成功した友人、優秀な若者、それに比べて自分は…。揺れる中年男をベン・スティラーが体現
#47歳 人生のステータス#オースティン・エイブラムス#シャジ・ランジャ#ベン・スティラー#マイク・ホワイト#週末シネマ
誰にでも訪れる中年の危機をユーモラスに描いた『47歳 人生のステータス』
【週末シネマ】妻と一人息子と平穏な生活を送っている47歳の男性が、息子の大学受験を機に、自らの中年の危機に直面する様子をリアルに、ユーモラスに描く『47歳 人生のステータス』。2017年の作品だが、家族について、エゴとの向き合い方について、幸せについて、普遍的な共感を誘う温かいコメディだ。
・若者に振り回される中年男を好演『ヤング・アダルト・ニューヨーク』ベン・スティラー インタビュー
主人公のブラッドはNPOを運営し、カリフォルニア州サクラメントで穏やかに暮らしている。生活に不自由はないし、妻子との関係も問題はない。富や名声よりも社会への貢献を選んだのは自分自身なのに、政治やビジネス、エンターテインメントといった分野で大成功を収めた学生時代の親友たちのセレブ生活が気になって仕方がない。
平凡な中年男役を得意とするベン・スティラーの集大成
妄想混じりに嫉妬心を募らせては自己嫌悪に陥るブラッドを演じるのはベン・スティラーだ。ごく平均的な中年男性キャラクターは彼の得意とする役どころで、矛盾を抱えて揺れまくるブラッドはスティラーが今まで数多く演じてきた、悟りきれない/大人になりきれない大人というキャラクターの集大成ともいうべきものだ。
ブラッドの息子・トロイは優秀で、進学先としてハーバードやイェールなど名門大学を目指している。父と息子は受験準備のためにボストンへ赴き、大学訪問を始める。ブラッドは旧友の1人で、売れっ子政治評論家にしてハーバードで講義もするクレイグと久々に再会し、親友だった4人と自らの格差を思い知る。そこで、ますます息子には大きなチャンスをつかませたいと考え始める。
我が子に夢を託したり、その才能に嫉妬したり、大人の複雑な心境に共感
自分の出身校よりも格上の大学に合格しそうなわが子のために、良かれと思って余計なことをしてしまう。無意識のうちに叶わなかった自分の夢を託していたりする。そればかりか、優秀な息子への微かな嫉妬もあるような、複雑な心境。さらに、ハーバードで学ぶトロイの友人で、インド系の女子学生アナンヤの知的でポジティブな姿勢に、かつて希望に満ちていた自分を思い出したり。いい齢のはずなのに、他者との比較で揺れまくる頼りなさは、実は大人の誰しもが身に覚えがあるものだろう。
アナンヤ役のシャジ・ランジャ、そしてトロイ役のオースティン・エイブラムスという若い世代との共演シーンでスティラーが見せる大人の脆さは絶品だ。浮き足立つ親よりも落ち着いている息子を演じたエイブラムスとの親子の距離感もリアルだ。
ブラッドの人生のステータスは劇的に変化するのか? 物語は誰もが想像する通りの答えにたどり着く。だが、ありきたりのようでいて、そうでもない。
脚本家として『スクール・オブ・ロック』などを手がけたマイク・ホワイトが監督・脚本を務め、ブラッドの友人の1人を演じた本作は、世間と自分を比較し続けた先に訪れる境地を興味深く描き出している。(文:冨永由紀/映画ライター)
『47歳 人生のステータス』は2021年6月11日よりオンライン上映
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