1982年にレバノンで起きたサブラ・シャティーラの虐殺。24年前、19歳でレバノン戦争に従軍した男は、ある時、戦争の記憶がぽっかりと抜け落ちていることに気づく。あの日、サブラ・シャティーラの間近にいたはずの自分は、一体何をしていたのか? 男は、戦友たちを訪ね、封印された記憶を掘り起こす旅に出る……。
ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞をはじめ様々な映画賞を受賞し、世界中で高い評価を得た『戦場でワルツを』は、イスラエル人監督のアリ・フォルマン監督自身の体験をもとにつくられたドキュメンタリー映画だ。アニメーションという手法を用いた異色作だが、戦争というシュールな体験を映像化するためには、無駄な情報をそぎ落としストレートに五感に訴えるアニメ映像が一番ふさわしいと、当初から考えていたという。だが、アニメ化したがゆえに、4年を費やしたという製作は困難を極めることに。
「製作過程は2期に分けることができます。最初の2年間はリサーチや準備に費やしました。次に、アニメーターたちと映像を作り上げていく作業。アニメーターが存在しないような国イスラエルで、アニメスタジオを作り上げるようにして映画を作っていきました」
アニメの歴史がない国でアニメ映画を作り、苦労したわけですが、伝統がないからこその自由さもありました。もしアニメの歴史が長い日本で同じことをしようとしたら、『何も知らないくせに』と口を挟み非難する人もいて、伝統にがんじがらめになってしまったのではないかと思います。けれど私は、お金もサポートもない状態でしたが、自由だけはあったわけです」
良き仲間にも恵まれたが、やはり金銭面では特に苦労したそうで、自宅を抵当に入れたこともあったとか。奥さんは反対しなかったのだろうか?
「妻は映画プロデューサーで、私よりも無責任なキャラクターなので、反対はされませんでした(笑)。確かに3人の子どももいたので大変でしたが、もともと楽観主義者なので、絶望したことはありませんでしたね。でも、こんな苦労は一度で十分。二度ギャンブルすると、絶対失敗しますから(笑)」
記者会見では、自らの作品を反戦映画と位置づける一方、ハリウッドが作り出す戦争映画への批判も口にしていた監督。反戦映画に見せかけながらも、その実、戦争へのロマンを煽(あお)るような作品が多いというのだ。
「最悪なのは『プラトーン』ですね(笑)。それから『ディア・ハンター』。米兵が犠牲者で、ベトコンは趣味の悪い暴力的な人々としてだけ描かれています。敵のひどさばかりが強調されているため、米兵がそこで何をしているのかについては疑問を持たないように描かれている、極めてファシスト的な作品です。たとえば16歳くらいの少年が見たとしたら、兵士が格好いいものだと思ってしまうかもしれません。
一方、『地獄の黙示録』は、戦争の暗部、悲惨さがよく描かれています。『フルメタル・ジャケト』も、戦争の真実に迫った作品だと思います」
ホロコーストを生き延びたポーランド人の両親の下、イスラエルで育ちながらも、自らを無神論者だという監督。本来は人間を救うための宗教が、人間を不幸にしている現状を嘆く。
「宗教による破壊があまりにも多く生まれています。信仰ゆえに死に追い込まれる人が多すぎる。宗教が、生を肯定するより死を肯定してしまっているんです」と語る監督だが、ユダヤ教国家であるイスラエルでは、おそらく少数派の意見に違いない。ならば、他国への移住を考えたことはないのかと問うと「ずっと考え続けてきました」と皮肉な笑いを浮かべてから、「でも、次の作品はパリで撮影する予定なので、家族そろって引っ越そうと思っています」と話していた。
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