強欲セレブ帝王の転落劇! 労働問題にも切り込む痛烈エンターテインメント
#イギリス#キーラ・ナイトレイ#グリード ファストファッション帝国の真実#スティーヴ・クーガン#マイケル・ウィンターボトム#週末シネマ
破産申請したオーナーがモデル『グリード ファストファッション帝国の真実』
【週末シネマ】グリード=強欲。本作の主人公につけられたニックネーム“グリーディ(Greedy=強欲な)”の元になる単語だ。
一代でファストファッション帝国を築いた辣腕経営者、リチャード・グリーディ・マクリディの生きざまを描くマイケル・ウィンターボトム監督の最新作は、主人公の強烈なキャラクターが名作『市民ケーン』を想起させると同時に、1970?80年代から現代に至るまでの社会のグローバリゼーションとその弊害の歴史を、鋭い風刺とブラックなユーモアを込めて描いていく。
・『いとしきエブリデイ』マイケル・ウィンターボトム監督インタビュー
スティーヴ・クーガンが演じる主人公、リチャード・マクリディ卿は、昨年破産したイギリスのファストファッション・ブランド「TOPSHOP」を擁するアルカディア・グループのオーナー、フィリップ・グリーン卿をモデルに作られたキャラクターだ。
エーゲ海のリゾートで自らの還暦祝いパーティを計画するが……。
異名通りの強欲さに加えて、「無理が通れば道理引っ込む」という諺が服を着て威張り散らかしている男は60歳の誕生日をエーゲ海のリゾート、ミコノス島で盛大に祝う計画を立てている。映画は、マクリディの回想録のゴーストライターに雇われたジャーナリスト、ニックの視点で描かれる。
パーティの準備が進む島の6日間の物語に、ニックが取材した関係者のコメント、安価な服作りの犠牲となっているスリランカの縫製工場の様子、脱税など数々の不正疑惑についてマクリディが議会で追及される場面がフラッシュバックする構成だ。裕福ではない出自からはったりと強気だけでのし上がったマクリディの半生はそのまま、過去半世紀のグローバル資本主義の歴史の縮図とも受け取れる。
ウィンターボトム監督とは『24アワー・パーティ・ピープル』(02年)から始まり、今回が7度目のコラボレーションとなるクーガンが、日焼けした肌に真っ白すぎる歯が強烈なセレブ経営者を怪演。弱者を搾取しまくって得た金で、大好きな映画『グラディエーター』の世界を模した誕生日パーティで自らのパワーを誇示しようとする、裸になりかけの王様の傲慢さと惨めさを見せる。
キーラ・ナイトレイらが本人役でカメオ出演、リアルさの一助に
彼らの世界では富める者はますます栄えるが、翳りの兆しが見えた途端に群がっていた人々は潮が引くように去っていく。盛者必衰の容赦なさをリアルに伝えるのに一役買うのが、本人役でカメオ出演する、コリン・ファース、キーラ・ナイトレイ、クリス・マーティンといった面々だ。
議会で証言する場面では、マクリディが実在の企業名やセレブたちの実名を連発する。チャリティなど様々な形態を利用して、富裕層が自己を正当化する現実を、マクリディというキャラクターを触媒に社会に問う発想は面白い。
ファミリー・ビジネスのCEOとして今もマクリディのビジネス上の右腕である元妻、若くて美人のトロフィーワイフ、ボーイフレンドとの恋模様をリアリティ番組で披露する娘、父との関係に悩んでカイロ・レンばりにエモい息子など、マクリディの家族は実在する複数のセレブ一家のパッチワークのようだ。
ケン・ローチとも違うアプローチで社会の現実を伝えるウィンターボトム監督
好き放題のセレブ生活を面白おかしく見せながら、ウィンターボトムはそこに不意に、スリランカの低賃金労働者や祖国から命からがら逃げ得てきた難民たちの実状もすべり込ませる。スリランカでは本物の縫製工場と従業員たちが登場し、マクリディがビーチから追い払おうとする難民を演じたのは、実際にシリアから命懸けで逃げてきた難民だ。
ギリシャというロケーションも、ディテールの1つ1つも考え抜かれた必然。ケン・ローチとも違う、エンターテインメント作のアプローチで、社会の現実をしっかり伝えて問題を提起している。(文:冨永由紀/映画ライター)
『グリード ファストファッション帝国の真実』は2021年6月18日より公開。
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