民主党政権が発足して早4か月。その間、補正予算の削減や事業仕分けなど、これまでの政権とは異なる手法で、永田町に新風を巻き起こしてきた。官僚支配からの脱却や、ムダ削減など、どれもこれも重要なことばかりだ。
そうした中、気になるのが「民主党政権になって、映画界はどう変わるのか」という、マニュフェストにも載っていないテーマ。3D映画に大きく舵を切ったアメリカ。国を挙げて映画産業を応援し始めた中国。加速度的に世界が動くなか、今、日本映画界は何をするべきかを考えることは、決して小さな問題ではない。そこでムビコレでは、政権を担う民主党議員を直撃する連載「民主党に訊く」をスタートさせた。
その第1弾として話を聞いたのは、昨年の衆議院選挙で初当選した長島一由議員だ。国会議員としは一期目だが、1998年に31歳で全国最年少市長として逗子市長に就任。その当時から取り組んできたのがフィルムコミッションだ。「フィルムコミッションと地域ブランディング」というテーマで教壇に立ったり、「フィルムコミッションガイド」(WAVE出版)という著書もある長島議員に、民主党政権として映画をどうしていくべきかを語ってもらった。
[動画]民主党、長島一由議員が語る日本映画(1)
[動画]民主党、長島一由議員が語る日本映画(2)
東京で大規模なロケ撮影が難しいわけ
──まずはフィルムコミッションについてお聞きします。映画などのロケ撮影のときに、撮影場所の誘致や支援をしてくれるこのサービスが整ったことで、映画を取り巻く環境はよくなってきていると思いますか?
長島:映画製作者ではないので、製作者サイドの目線はわかりませんが、結果を見ていると、地域と製作者とのタイアップは進んでいると思います。
私もフジテレビに勤めていたことがあり、取材経験があるのでわかりますが、役所に取材を申し込むとたらい回しにされたり、何か所も回らなくてはいけないことが多いんです。例えば公園の許可を取るには緑政課、道路使用は道路課と、窓口もそれぞれバラバラでしたが、フィルムコミッションが誕生したことで、ワンストップサービスを受けられるようになりました。以前だったら、許可を取るのが面倒だから「パッと撮って逃げる」といったこともあったと思いますが、今は地域にも歓迎してもらい、市民ボランティアを出してもらったりと、地域と一体になって撮影に取り組めるようになっています。
── 一方で、東京だけが、いつまで経っても撮影許可が取りにくい。どうしてでしょうか?
長島:なぜ『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』みたいな映画で、本当のレインボーブリッジを封鎖できないのかって話ですよね。それは、警察から許可が下りないから。ではなぜ、警察が許可しないかというと、本当に封鎖したら、ものすごく苦情がくるからです。
なぜ、アメリカでは撮影のために封鎖ができ、日本ではできないかと言えば、国民の理解の差。アメリカでは映画が産業であると認識されていて、橋を3時間封鎖したら交通渋滞になるとわかっていても、産業になっていて税金を何億円、あるいは何十億円を投資したことに対して、これくらいの雇用がありますよと、きちんと国民にプレゼンテーションがされているんです。
ところが日本の場合、それに対し、これくらいの効果がありましたとか、みなさんの雇用にこれだけ繋がっていますといったプレゼンテーションが全然されていない。そうすると結局、映画のために道を封鎖したとなると、逗子市長時代もそうでしたが、子どもの保育園の送り迎えに間に合わなかったといった苦情がくるわけです。
──それを改善していくためには、どうするべきでしょう?
長島:やはり説明をすることです。この映画を作るために、みなさんの税金を使って、フィルムコミッションがこういう働きをしてくれ、こういう作品が完成しました。これに対して年間経済効果がこれくらいになります、と。こういう説明を単発ではなく、ずっと続けていくことで、「これだけのメリットがあるなら、じゃあ」と理解をしてもらえれば、警察も許可を下ろすようになるでしょう。だから、まずは、国民に対するプレゼンテーションをしっかりやるべきだと思いますよね。
東京国際映画祭も仕分け対象に
──そもそも、長島議員がフィルムコミッションと出会ったのはいつ頃でしょう?
長島:フィルムコミッションは逗子市長時代からです。私が市長を務めたのは1998年から2006年までで、日本初のフィルムコミッションが立ち上がったのが2000年の大阪。それから6年ほどでフィルムコミッションは、一気に全国で100くらいに増えていきました。
話は変わりますが、大学院時代に「ソフト・パワー」について修士論文を書いたことがあるんですね。1990年代初頭くらいで、その頃から日本のソフト・パワーを強くしていかないといけないと思っていました。さらに2000年前後になると、今度は英国のブレア首相が国家のイメージ戦略「国家ブランディング」を始めたり、韓国が映画政策で成功を収めたりし始めて。日本政府もようやく、2002〜2003年頃から映画に補助金をつけたりといった動きが出始めました。私自身も、ソフト・パワーは日本にとって、もっと大事にすべきだと思っていますが、それには戦略が大事なんです。
──具体的にはどういうことでしょう?
長島:記憶に新しいところでは、アニメの殿堂。批判されて補正予算がなくなりましたが、そもそも、狙いや投資対効果という視点が薄いのが課題なんです。
例えば今回の事業仕分けで、東京国際映画祭も事業費圧縮になっています。これは、予算を付ける側が、取りあえず枠としてお金を付けるけど、具体的に事業に対してどれくらいの投資をしたら、どれくらい成果が出るのか? それで成り立つのか? そういった戦略を、きちんと立ててこなかったから。
以前、大阪の橋下知事がオーケストラの予算を切るときに、すごく抵抗されましたよね。あれもそうで、文化事業は成果が出るまで時間がかかるからということで予算付けをする。そうすると、すぐには成果が出ないので、切るに切れないんです。予算を切ろうとすると、今度は市民団体とか、あるいは政治力を使って、圧力をかけてくるので。
フランスのナントという街に視察に行ったことがあるのですが、そこでは、やみくもに既得権益化しないために、予算を出しっぱなしにせず、きちんと投資対効果を検証している。市民ホールに観客が入ったら、何人入って、満足度はどうだったといった具合に。そういったことを日本でもやっていかなくてはならない。
釜山映画祭は都市開発とセットで発展!
──今、話に出た東京国際映画祭ですが、確かに最近は、来日スターの知名度や数などが落ちてきているように感じます。
長島:もし、運営がうまくいっていないのであれば、それは成果とか戦略とか、位置づけがしっかりしていないから。例えば釜山映画祭。成功の理由は幾つもあると思いますが、1つには単なる映画祭の枠を超えて、都市開発とセットになっていることが挙げられます。映画祭を開催するごとに、コンベンションセンターなどを新しくし、映画祭に限らずAPEC(アジア太平洋経済協力)の会議などを誘致し、いろいろな国際イベントができるようにしているのです。
もう1つ、日本と違うのが、民間からお金を集める割合が大きいこと。日本の山形国際ドキュメンタリー映画祭だったら、約1億3000万円の予算のうち、1億円くらいは税金でまかなっていて、民間から集めているのは、残りの2000〜3000万円に過ぎない。また、コンセプトも大事。逗子市長在任中に、地方のいろいろな映画祭を見ましたが、コンセプトがしっかりしているかどうかで、成功するかどうかが違ってきます。
──今回、「民主党政権になって、映画界がどう変わるのか?」というテーマで取材しようと、民主党本部と事務局に電話したら、特に党内で映画を担当している議員が見つからなかった。議連のような形で何人もの参加者がいるなど、窓口がわかりやすいといいなと思ったのですが。
長島:政権交代したばかりということもありますが、実は今、民主党は基本的に族議員を作らない方針なんです。族議員には光と影の部分があって、悪いイメージだと利権をむさぼる集団に見えますが、逆に各分野に精通したプロフェッショナルであるという面もある。そうしたプロフェッショナルは民主党も必要としているので、映画についても、チームなり、部会なりは今後、作られていくだろうと思います。
必要なのは予算を付けることではなく、国家的戦略
──昨年末『NHKスペシャル|チャイナパワー 第1回 “電影革命”の衝撃』という番組を見て、中国パワーに圧倒されました。あれだけのパワーを相手にするには、いろいろな意味で国の協力や支援が必要に思えます。支援するとしたら、具体的に、どんな方法が望ましいのでしょう?
長島:一観客としては、面白い映画を作って欲しいという願望はあります。ですが、大事なのは1本の映画ではなく、国家戦略として日本映画が力をつけていける方向に支援していくということ。
単に予算をつければいいのではなく、きちんと投資対効果を示せることが大切です。お金を受ける側もきちんと対応し、戦略的にこういうことに使い、1年で結果が出ないかもしれませんが、10年だとこうなりますと、ビジョンを説明していただく必要があります。今までは枠で予算をつけ、「つけた以上は、消化してもらわないと」となっていましたが、そうした責任感のない姿勢をなくすことからはじめないと。
──日本の映画料金の高さなど、映画界活性化のためには、ほかにもいろいろと課題があります。
長島:映画だけを担当しているわけではないので、そういうことを意外に知らなかったりします。問題点があれば教えてください。私自身、何のしがらみもないので問題に向き合うことができると思います。
──まずはきちんと調べて要望を出すことが大切?
長島:現場から声を上げていただかないとわかりませんので。でも、必要があれば、どこにでも行きます。
──最後に2つほど質問です。1つ目は長島さんの好きな映画を3本教えてください。
長島:ありきたりですけど『ローマの休日』とか、100回くらい見てますからね。それと『昼下がりの情事』と『スミス都へ行く』ですね。
『ローマの休日』は記者になりたいと思ったきっかけの映画。『スミス都へ行く』は、政治家になってから見た映画。政治の良心みたいなものを感じさせてくれる作品です。フランク・キャプラが監督で、その後、別のキャプラ作品を見たりしました。『昼下がりの情事』は全体の構成と、なんといってもラストシーンが卓越していて、何度見ても涙するし、感動しますね。
──ではもう1つ。最後にどういう議員になっていきたいですか?
長島:私自身、1人の有権者だったときから思っていますが、税金や年金を収めることに対して納得できる国にしたいし、そういう国であってほしいですね。政治家である以上、そう思っているので、税金の使われ方に対してはシビアに見てきたつもりですし、これからもそうしていきたいと思っています。
(テキスト:安部偲)
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