80年代ポップスがエール! 偏見と戦うゲイの水球チームの友情と奮闘を描いたフランス映画

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シャイニー・シュリンプス
『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』
(C)LES IMPRODUCTIBLES, KALY PRODUCTIONS et CHARADES PRODUCTIONS
シャイニー・シュリンプス
シャイニー・シュリンプス
シャイニー・シュリンプス
シャイニー・シュリンプス

チームは実在! 『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』

【映画を聴く】同性愛者への配慮に欠けた発言のペナルティとして、ゲイのアマチュア選手で構成された水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のコーチをやることになった元オリンピック銀メダリスト水泳選手のマチアス。3ヵ月後に開催されるLGBTQ+による世界最大の総合競技大会「ゲイゲームズ」にチームを出場させることを選手復帰の条件として提示され、渋々コーチを引き受ける。しかし件の問題発言について反省の色も見せず、適当にやり過ごそうとしているコーチをチームが素直に受け入れるはずもなく、両者の溝はなかなか埋まらないーー。

・『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』セドリック・ル・ギャロ&マキシム・ゴヴァール監督インタビュー

本作『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、実在するフランスの水球チーム、シャイニー・シュリンプスのメンバーであるセドリック・ル・ギャロが監督と脚本を担当している(マキシム・コヴァールと共同)。実際に世界各地で行なわれる大会にチームとして出場し、「奇異で過激に見られようと自分を貫く自由な仲間との旅が、人生観を変えるほどの経験になった」というル・ギャロ監督。本作にはその経験が数多く反映されているようだ。

『プリシラ』と共通する、旅、死の存在、ポップな音楽の使い方

これまでもLGBTQ+を題材とした映画はいろいろと作られてきたが、本作はロードムービー的な要素を持つ点、登場人物たちの近くにいつも「死」が存在する点において、1994年のオーストラリア映画『プリシラ』を思い出させるところがある。とあるショーに参加するため、3人のドラァグ・クイーンがバスでオーストラリア大陸を旅する『プリシラ』の主題に据えられているのは、性的マイノリティとして心ない差別を受けながらもユーモアと自尊心を忘れない3人の生き様である。そして本作におけるシャイニー・シュリンプスのメンバーも、それぞれの背負う悲哀を仲間に見せることなく、ユーモアと自尊心をもって自分たちの道を進んで行く。

また両作は、LGBTQ+のカルチャーや本編のストーリーラインの補足のために音楽をうまく活用している点も共通している。『プリシラ』でド派手な衣装をまとった3人が殺伐とした荒野を行く背景に流れる音楽は、ヴィレッジ・ピープルの「Go West」やアバの「Mamma Mia!」といった70?80年代ディスコ・ヒットが中心。「Go West」という言葉はもともと西部開拓時代のアメリカで重用されたスローガンだが、ヴィレッジ・ピープルは「West」をゲイ解放の地であるサンフランシスコと再解釈して歌い、多くの支持を得た。「Mamma Mia!」を歌うアバも、ヴィレッジ・ピープルと並ぶゲイ・カルチャーのアイコンとして今も高い人気を誇っている。

シャイニー・シュリンプス

日本語カヴァーも大ヒットした「ヒーロー」の歌詞は彼らへのエール

一方、『シャイニー・シュリンプス!』のサウンドトラックの基調になっているのは、80年代ポップスの名曲たち。テーマ曲的に扱われるのは、ウェールズ出身の女性シンガー、ボニー・タイラーが歌った1984年の「Holding Out for a Hero」という楽曲だ。この曲は、同年に公開されたアメリカ映画『フットルース』のテーマとして世界的にヒット。日本では「ヒーロー」のタイトルで麻倉未稀の歌った日本語カヴァーがTBS系のドラマ『スクール☆ウォーズ~泣き虫先生の7年戦争~』に使われたことで現在まで聴き継がれている(麻倉未稀よりも4ヵ月先に葛城ミキもシングルとしてリリースしているが、歌詞が異なる)。

この「Holding Out for a Hero」が実際にゲイ・アンセムとして親しまれているのかどうかは分からないが、「ヒーローが必要だ/手を伸ばしてヒーローを求めている/夜が終わるまで/彼は強く、俊敏で/戦いの中から生まれてきたばかりのよう」と歌われる歌詞は、明らかに逆境と戦うシャイニー・シュリンプスのメンバーたちへのエールとしてあてがわれたものだろう。

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女の子目線の恋の曲をゲイのメンバーが歌うシーンも興味深い

そしてもうひとつ、印象的に使われる「Boys」という曲。これはイタリア人女性シンガーのサブリナ・サレルノが歌った1987年のヒットである。もとは「夏の恋を男の子たちと謳歌しよう」と歌う女の子目線の曲だが、ゲイゲームズに向かうバスに揺られながらシャイニー・シュリンプスのメンバーが歌うと、その意味は当然ながら違って聞こえてくるから面白い。80年代ポップス以外にも、セリーヌ・ディオンやR.E.M.らの有名曲も使われ、音楽が全編をカラフルに彩っている。

水泳選手としてのキャリアを優先し、まるで家庭を顧みることがなかったマチアスが、幼い娘の偏見のない態度に学んでシャイニー・シュリンプスのメンバーたちに心を開いていったように、本作は大多数の人々へ向けて「変化」を促すだけでなく、「自分の人生を取り戻す」ことの大切さを教えてくれる。それは、より良く生きようとする人すべてに有効なメッセージとして響くはずだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、2021年7月9日より公開

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